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REIWA詩人パーフェクトFile⑥采目つるぎ

※「月刊 新次元」第37号(2020年6月)に掲載された記事の再掲です
再掲の際に一部を修正していることがあります
https://gshinjigen.exblog.jp/29075007/
http://geijutushinjigen.web.fc2.com/37watanabe.pdf

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さて、第6回になるREIWA詩人パーフェクトFileですが、今回で最終回となります。半年も連載していたのだなと思うとなかなかに感慨深いですね。

その最後を飾るのは采目(さいのめ)つるぎ氏です。日本現代詩人会投稿欄で第2回の新人に選ばれたことからも知っている方は多いのではないでしょうか。
私と同じオタク系の詩人ということもあり、REIWA詩人パーフェクトFileで以前紹介した夢沢氏と同じように仲良くしてもらっています。特に采目氏は現在関東在住であるため会う機会も多いです。それこそ、前回の元澤氏が参加してくださった「詩絵両交」には皆勤賞で来てくれています。

その采目氏が定期的に刊行している個人詩誌が「poison berry」です。

2020年6月現在、0号から7号までの8冊プラス0号と1号の収録作品を解説したセルフライナーノートが刊行されています。なおライナーノート以外はboothで購入可能です。6号7号を除きpoison berryはネットプリントで一定期間配信されたものでして、ライナーノートもその流れで刊行された代物なので現在入手困難です。それを所有している愉悦フフフ

まずは作品を読んでもらいましょうか。では、vol.1より「Dog Tag」

もとの意味さえわすれた符号を
きみと僕とであいことばに据えて
  
「……肉の爛れる音がする、
「そういうのだけ聡いんだから。
「んっ、また空が分解しちゃうかも
「そういうの嫌と思うな、彼女。
「知らないよ。どうせこの心なんか、
「しーっ。……硬いね、この鍵、
「呟いてよ、
 “The world won’t listen”って。
からからと、ざわめく
識別不能のしるしとからだ
閉じ箱になればいい
そして互いにしがらみつきながら堕ちればいい
  
「胸の文字が消えかかってる、
「発行した体液。
「こぼさないでね、
「いつ食べてもらえるかなぁ、
「愛の実験だよねこれって。
「首を探す猫のような、
(後略)

采目氏の作品が持つ特徴はやはりとじかっこを欠いた会話の応酬でしょう。私が知る限りだと采目氏はこの特異な作風について詳しく述べていない(「作者的に意味は一応あるっちゃある、なきゃ使わない」程度)ので、その効果は読者一人一人が考えるしかない。まず、かぎかっことは文中における会話部分を示す記号であることは誰しもが知っていることでしょう。つまり 「 ではじまり 」 で終わるテキストが昨秋人物の発した言葉です。しかし采目氏の場合は会話の終わりを示す 」 が欠けており、言葉が閉じられぬまま次の会話がはじまっている。通常なら区切られパッケージされる言葉はそのピリオドを失い、話者が語り終わった後も際限なく広がっていきます。また、会話なのでその場にいるのはひとりではありません。閉じられなかった言葉たちは少なくとも二人の人物から発せられたものであり、出所が異なるそれらはパッケージ化されなかったがゆえに混じり合い、混沌とした≪唯一つのもの≫へとなっていきます。
もちろんこれは私の解釈であり、作者がそう思って行っているかはわからず、また他の読み手もそう取らえているかも定かではありません。ただ、それでいいのです。詩に答えをもとめちゃあいけねぇよ。大切なのはそれが≪答え≫をさまざまに想像させるほどの力を持っているかどうか。そういう意味ではこのとじかっこ欠きは成功でしょう。

また、かぎかっこ内の文章自体も独特ですよね。会話しているのか各々の独り言なのか、相手の述べたことを受けての発言なのかまったくの独自世界からの言葉なのか。抽象度が高い会話となると私なんかは東方projectを連想しますが、それとはまた毛色が違う。
そうなんすよね、私はたとえば東方とかガルパンとかirodori(たつき監督)とかが好きなのですが、一方で采目氏は魔法少女まどか☆マギカやプリンセス・プリンシパル、またジャンルとしての「百合」など、同じオタクとしても傾向がだいぶ異なるんですよね。前提となる知識や感覚がだいぶ異なるから慣れるまでに時間を要しましたが、今では結構読み取りのチャンネルが合ってきたのでいい塩梅(そしてそれにはガルパンの「押安」が大きく関わっている)。まぁねそれでもまだ全然追いついていないところはあるが、私と采目氏の間にある差はゆくゆく現代詩のフィールドに多様性をもたらすことに役立つだろう、と私は一方的に思っています。

オタク的要素を盛り込んだ作品というのはその読み取りにある種の「知識や感覚」が求められるのが魅力であり、またそれを持たない者にとっては欠点にもなってしまう。たとえばvol.7収録の「The Most Beautiful Birthday Ever.」は

(冷静に語る余裕なんてとっくに亡くしてるんだよ、
(朝に目覚めただけでそれは1日分のプレゼントなのさ。
(ログインボーナス、なんてね。
ベタすぎて申し訳ないけど、

という始まりです。この「ログインボーナス」とはスマートフォンゲームやソーシャルゲームなどの概念です。そういったゲームはユーザーに少しでも多く遊んでもらうべく、その日はじめてのログイン時にボーナスを出します。ユーザーは当然ながらそのボーナス目当てでログインするようになるわけですが、段々とログインが単純作業化してしまう。ログボなる軽薄なものとその日の起床を合わせることで詩中主体は自身が立つ世界をどう感じているかを表しているわけです。また、poison berry未収録だが私が好きな作品である「Bijou in a beehive」なんか

ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないどぼぢでごんなごどずるのゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない

なんてのが出てくるのだが、「どぼぢでごんなごどずるの」にも元ネタがあったりしましてね、何とは言わんが(密教並に秘すべき文化なのよ察して)。これはじめに読んだときはほくそ笑んでしまったよ。もちろんこういったものを知らなくても楽しめるように作品は作られているが、まぁね、隠し要素としての面白さよ。

じゃあ最後に一作紹介して終わりましょうかね。すごく短い詩ですがすごく気に入っている作品です。それではご覧ください、「AM 2:12」

「飛ぶ夢をよく見るの、
「知ってる。落ちてくるのを
受け止めるのいつもあたしだから。

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さてさて、長らく連載を続けてきました「REIWA詩人パーフェクトFile」ですが、最初に申したように今回で最終回となります。同世代の詩人を紹介していくという経験は私にとってもプラスとなりました。6回分の執筆を終えてもうおなかいっぱいではありますが、しばらく経ってまた空腹になってきたら何かしらの形でこういった紹介を行いたいなと感じています。

最後になりますが、「REIWA詩人パーフェクトFile」のお話を持ち掛けてきてくださった責任編集の平居謙先生、これまでの連載で紹介を許可してくださった詩人の方々、そしてこの連載にお付き合いくださった読者の一人一人に感謝の意を伝えます。皆様、本当にありがとうございました。それではまたどこかで会いましょ~~

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