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世界最大級の植物標本を作るまで

「大きいことはいいことだ」
いにしえのCMはそんなことを言っていたらしい。
見たことはないし良いことなのかはわからないけども。
ともかく「大きいこと」をテーマにこの活動は動き出した。

北海道を拠点に「自然の美しさ・面白さ」をテーマに活動を始めて一年経った去年のこと。大きなフキが食用に栽培されていて、その繊維で和紙が作られているという話がやってきた。


収穫風景に漂う強者感

行政主導で30年ほど、フキの廃棄物だった繊維を使って和紙を作っている。和紙文化のない北海道で作られているユニークな和紙のお話、食用として栽培されているアキタブキの話など。

釧路市の音別地域。
人口減少が進んで、飛び地を挟んで合併した旧音別町のこと。
意外と大正製薬があったり海にクジラやイルカが見られること。
フキ栽培やフキ祭り、フキピクルスなど食べ方のこと。
そして産業の衰退とフキ和紙の開発、認知が広がらない難しさのこと。

フキの話が気がつけば、地域全体の話になっていた。
植物がその地域に生えていること、そして栽培されていることは、隠れた膨大な下部構造に支えられていることに思い至る話。

「音別フキや和紙のことをもっと広められたらいいなぁと思っています」
その話と並行して、頭の片隅には「巨大植物標本」というフレーズが湧き上がっていた。

フキの茎は風などストレスを受けると赤く固くなる
茹でて皮を剥けば美味しく食べられる

植物からヒトへのメディアとして

まずは美しさ。
フキは普段から見ているけれど、そこに美しさを感じたのは音別のフキが初めてだった。地下茎で繋がる大きなふきが、地上部分に茎と葉っぱを伸ばしていく。

そのようにして広がる葉っぱは、まさにトトロで見た大きさ。傘になるくらい大きく広がる。なぜかシカはあまり食べに来ず、虫も少ない時期の葉っぱは艶々と輝いていた。この美しさをなんとか伝えられないだろうか…という考えがまずあった。

そして大きさ。
植物標本もよく見かける。
押し花は気軽に作ることもできるし、勉強のために押し葉標本を作る人も多い。正直そこまで珍しいものでもない上に、部屋に飾っても他のインテリアに埋没しがちな印象だった。

都市や家の中では、意外と植物の美しさに注目することは難しい。けれども圧倒的に大きく美しいフキを植物標本にできたなら、人工物に囲まれていようが見ざるを得ない。植物の側からヒトの側へと主張する、メディアとして植物標本は機能しないだろうか?

加えて植物標本には台紙がいる。
そこにフキの和紙を敷き詰めて、なんなら額縁は釧路地域の鮭箱を使う。
植物のメディアでもあり、地域のメディアとしても機能するフキの巨大植物標本。

作れるかどうかは分からないけども、それを含めて実験したかった。
ということでフキを3本いただき、5時間運転して自宅へ持ち帰る。
そして巨大植物標本を作るという実験がスタートした。

途中から暴風雨になった

作ってみる

まず1mを超えるような植物標本を見ることはほとんどない。
東京にあるインターメディアテクで見たことがあるくらい。
しかもフキは、切った瞬間水が流れ出るくらい水分量の多い植物。
これの標本が作れるかどうかは、実験してみなければわからなかった。

ベニヤ板4枚、ティッシュに新聞紙にシリカゲル、そして紙やすり。
重石も大量に必要だから湧水を導入。使えるものは大体使い、腐らせないように徹底的に乾かす。

するとなんとか仕上がった。
と共に試行錯誤の中で「巨大植物を乾かす技術」という潰しの効かないテクニックが自分の手に残った。あとは額装という運びになる。

フキの大きさに香り、そして乾かしても乾かしても残る水分。人生でもっともフキに向き合った10日間だったと今でも思う。こうして「見ざるを得ないメディアとしての植物標本」は出来上がった。

巨大エイを思わせる形と大きさ

額縁をつくる

この巨大なフキが生きる場所 - 北海道釧路市・音別地域のこと。これを伝えるメディアとしても巨大植物標本をまとめ上げるため、新巻鮭の箱を使って額装したかった。そこで鮭箱アップサイクルプロジェクト「ARAMAKI」を手掛けるゲンカンパニー村上さんに連絡し、最大サイズのアクリル板を調達しつつ鮭箱での額装の企画制作をサポートしていただいた。

ただし作業は自分も行う、当然のことである。
でなければここまで制作した甲斐も薄れてしまう。
鮭箱の加工から和紙の敷き詰めに額の制作など、3日間の合宿で一気に仕上げにかかった。

釧路地域の新巻鮭箱
これを組み合わせて額にする

完成-メディアとしての巨大植物標本

そしてついに巨大植物標本の試作品が完成した。
タテ248cm・ヨコ127cmの1枚の押し葉標本。

東京駅の真ん中であろうとMOMAであろうと。
いかに人工物に囲まれた環境だろうと「植物のかたち」に目を向けさせるインパクトを纏う、植物標本が誕生した。



自然保護や観葉植物に朝ドラなど、植物の二次情報を受け取ることは多い。とはいえ目の前の植物に対して眼差しを向けにくい、そんな世の中において「巨大である」ことが一次情報としての貴重なインパクトを纏ってくれている。植物から人の、葉っぱ一枚という大きなメディア。
僕はこれがいたく気に入っている。

大きいことはいいことだ。
僕らに眼差しを持つ瞬間を与えてくれる。
 

最後に-貸し出します

とりあえず吹き抜けのある自宅に飾り、堪能することができた。
今もフキに見下ろされながらこの文章を書いているし、友人は皆たまに、植物への眼差しをチラリと向けながらリビングでくつろいでいる。

けれども、このプロジェクトは「誰かが見る場所」に置かれることで完成するものである。そしてスペースさえ許せば、どこだろうと植物への眼差しを持つ舞台装置として機能する。

そのためこの試作品「巨大植物標本-釧路音別地域のアキタブキ」は、希望される方に無料で長期間貸し出すこととした。送料だけご負担いただければという形で継続的に動いており、数ヶ月〜数年単位でじわりと移動する植物でいてくれたらフキも喜ぶと思っている。

このデジタル社会に置いて、植物はディスプレイやヒトの頭の中に根を伸ばし、種をまく感覚をぼんやりと持っている。「アキタブキ」「音別」という概念が、少しでも頭の中にこびりついてくれたなら。それはいつか芽を出すはずである。

andy ( MIMORI共同代表 )

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