ラメルテオンとスボレキサントのせん妄予防効果について

 本記事は、ラメルテオンとスボレキサントのせん妄予防効果について、いくつかの論文を参照して、科学的根拠を確認することを目的として作成しています。実際の使用可否については、臨床現場での慎重な検討が必要になりますが、本記事が誰かのお役に立てたら幸いです。

緒言)

 せん妄は、身体疾患や薬剤、手術などが原因で起こる、軽度から中等度の意識障害であり、これは脳の機能不全であり、精神的ストレスが直接的な原因となり起こりうるものでないと言われている(1)。また、最近の研究では、せん妄は一過性でないこと、さらに予後不良と関連していることが明らかとなった(2)。2022年3月現在の日本の予防的介入および治療的介入について、せん妄に適応を持つ薬剤は存在しない。抗精神病薬が有効性を示した報告はあるが、その副作用のため、使用可否については議論が多い。そこで、メラトニン受容体アゴニストであるラメルテオン(商品名;ロゼレム)と、オレキシン受容体アンタゴニストであるスボレキサント(商品名;ベルソムラ)が注目されている。

薬効薬理)

 ラメルテオンは、メラトニン受容体に対する高い親和性を有するメラトニン受容体アゴニストである。メラトニンには催眠作用があり、日中の分泌は低いが、夜間に分泌量が増加する(3)。

 スボレキサントは、オレキシン受容体アンタゴニストである。オレキシンは、覚醒/睡眠を調整する重要な神経伝達物質である。視床下部に局在するニューロンに発現しており、覚醒に関与する神経核に投射し活性化させることで覚醒を維持している(4)。

 メラトニン、オレキシンとせん妄の関係性については、前回の記事に記載させていただいています。

ラメルテオンのせん妄予防効果と安全性について)

 「Preventive Effects of Ramelteon on Delirium A Randomized Placebo-Controlled Trial. JAMA Psychiatry.2014;71(4):397-403.」では、65-89歳の患者を対象として、ロゼレム8mg/dayかプラセボのどちらかを服用しもらい(1:1 ratio)、その後7日目まで観察することで、せん妄の発症割合を群間比較している。また、ここでは、入院時に既にせん妄症状がある患者は除外されている。結果について、せん妄の発症割合は、ロゼレム群は、プラセボ群よりも発症割合は低く(1/33 vs 10/31)、ロゼレム群で発症したこの1名については、せん妄の既往があったと記載されている。有害事象については、観察期間7日間で観察されていないと記載されている(5)。

スボレキサントのせん妄予防効果と安全性について)

 「Preventive Effects of Suvorexant on Delirium: A Randomized Placebo-Cotrolled Trial. J Clin Psychiatry 78:8,September/October 2017 」では、65-89歳の患者を対象として、スボレキサント15mg/dayかプラセボのどちらかを服用してもらい(1:1 ratio)、その後4日目まで観察することで、せん妄の発症割合を群間比較している。また、ここでは、入院時に既にせん妄症状がある患者は除外されている。結果について、せん妄の発症割合は、スボレキサント群は、プラセボ群よりも発症割合は低かった(0/36 vs 6/36)と報告されている。有害事象については、観察期間4日間で観察された重篤な有害事象の報告はなかったが、次の有害事象[スボレキサント群(%) vs プラセボ群(%)]が報告されていた。眠気[17:14]、頭痛[3:3]、倦怠感[14:6]、めまい[6:3]。これらの副作用について、両群では違いはなかったと記載されている(6)。

ラメルテオンとスボレキサントのせん妄予防効果と安全性について)

「Real-World Effectiveness of Ramelteon and Suvorexant for Delirium Prevention in 948 Patients with Delirium Risk Factors. J Clin Psychiatry 2020;81(1):19m12865」では、上記2本の論文と異なり、対象患者に、入院時点にせん妄があった患者を含めている。そして、目的は、試験登録時に既にせん妄のあった患者となかった患者(せん妄のリスク因子は有している)を対象として、被験薬服薬開始後7日目までのせん妄の発症割合について、ラメルテオンとスボレキサントの併用または、どちらか単剤の服用群(被験薬群)と服薬無し群(コントロール群)を比較することで、せん妄のの予防効果を確認することと記載されている。結果は、いずれも、被験薬群の方がせん妄発症割合は低かったと記載されている。面白いのは、この試験では、服薬タイミングについて、7:00pmと9:00pmの2パターンがあり、ラメルテオンでは、9:00pmよりも7:00pmの方が発症割合が低かったと記載されている。また、有害事象として眠気が記載されている(7)。

抗精神病薬のせん妄予防効果と安全性について)

 「Antipsychotics for delirium in the general hospital setting in consecutive 2453 inpatients: a prospective observational study, Int J Geriatr Psychiatry 2014;29;253-262.」では、せん妄を発症した患者を対象とし、リスペリドン、クエチアピンとハロペリドールのいずれかを投与し、54%以上の患者で症状が消失したと記載されているが、副作用である錐体外路症状が5.6%発症したと記載されている(8)。

まとめ(個人的な感想)

 国内でのラメルテオンとスボレキサントのせん妄予防効果の報告では、65歳以上のせん妄のリスク因子を持つ患者およびすでにせん妄を発症している患者では有用であり、関連する有害事象としては、眠気が報告されている。せん妄は、長期的にみると予後不良との関連が認められており、臨床現場において、予防の必要性があることは明確である。別の選択肢として、抗精神病薬の有用性が報告されているが、副作用として錐体外路症状が発症する可能性がある。以上より、適応外使用ではあるが、有用性と安全性の両面から、65歳以上のせん妄のリスク因子を持つ患者およびすでにせん妄を発症している患者に対して臨床現場が必要であると判断した場合は、発症予防を目的としてラメルテオンとスボレキサントを投与することは妥当ではないだろうか。

参考文献)

(1)Eisai せん妄診療エッセンシャルガイド JB13144AKE 2021年9月作成. 
(2)Delirium in Elderly Patients and the Risk of Postdischarge Mortality, Institution and Dementia. JAMA,July28,2010-Vol 304, No.4
(3)ロゼレム 医薬品インタビューフォーム 2020年7月改定(第9版)
(4)ベルソムラ 医薬品インタビューフォーム 2021年12月改訂(第10版)
(5)Preventive Effects of Ramelteon on Delirium A Randomized Placebo-Controlled Trial. JAMA Psychiatry.2014;71(4):397-403.
(6)Preventive Effects of Suvorexant on Delirium: A Randomized Placebo-Cotrolled Trial. J Clin Psychiatry 78:8,September/October 2017 .
(7)Real-World Effectiveness of Ramelteon and Suvorexant for Delirium Prevention in 948 Patients with Delirium Risk Factors. J Clin Psychiatry 2020;81(1):19m12865
(8)Antipsychotics for delirium in the general hospital setting in consecutive 2453 inpatients: a prospective observational study, Int J Geriatr Psychiatry 2014;29;253-262.


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