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冬と春のすきま

日本には季節が七十二個も存在する。

春夏秋冬の四季を均等に六分割し、それをさらに分けたものを二十四節気と言う。さらにその二十四節気の一気(約15日)を初候、二候、三候と分けていくと、季節は七十二候にも及ぶ。

これを二十四節気七十二候と呼ぶのだが、こんなに季節のある国は日本くらいではなかろうか。

そんなに季節があると知ってからというもの、今日はどんな季節なのかと調べたりするのが何年か前から癖になった。

ちなみに今日、4月9日の二十四節気は「清明(せいめい)」。
万物が清く明るく見える始めるさまからこの名前が付けられている。

たしかに最近、陽が暖かい日も増えてきた。
葉っぱも生き生きしているように見える。

七十二候は「玄鳥至(げんちょういたる)」。
丁度この時期にツバメが南から飛来してくるらしい。

写真の鳥はツバメではないだろうけど、青空を自由に舞う鳥が楽しそうだった。友達もいたのだけれど、フィルムに収めることが出来なかったのが残念だ。

日本という国は、たった5日で季節が変わってしまう。

寝て起きたら、もう明日には季節が変わっている。
儚くて、気付いたらすぐ散ってしまう桜みたいだ。
それでいて、こんなにも焦燥感を生む。

焦燥感は、桜のように綺麗ではない。

ただ私を惑わせ、判断を鈍らせる。
その焦りに取り憑かれたように、シャッターを切る。

三人は、自転車で何処まで行くのだろう。

小さい頃は、自転車で何処までも行けてしまうような気がしていたけれど、今の私には、世界は、広すぎる。

電車に乗っても、新幹線に乗っても、飛行機に乗っても
あの頃の「自転車で何処までも行ける」ような気持ちを取り戻すことが出来ない。

それは、少しだけ寂しい。

いい天気で、心地よい風も吹いていて
でも焦ったり寂しい気持ちになるのは
少年たちがとても楽しそうだったからか、この季節のせいか。

年に5日しかないこの季節のうちの何時間かで、私はどれくらいの忘れたくない瞬間をフィルムに残すことが出来るだろう。

残しておきたい。
他人からしたら何気ない時間かもしれないけれど、今日がすぐに過ぎゆく七十二個ある季節のうちの何時間なのだと思うと、すべてが貴重で、大切で、特別だ。

この日は写真撮影に協力してくれた人が何人もいた。
「人が好きすぎて困っちゃうんですよ…」と仰っていた飼い主さんの気も知らず、人懐っこくすり寄ってくるこの子をフィルムに収めるのは、大変苦労した。

その苦労も、良い思い出だ。

今回の最終地点は、ここ。

若干西日が差し込んできた頃に行き着いて、サビた階段の手すりや色味に、飛び込んでしまえるくらい強烈な開放感を覚えシャッターを切ったら、丁度フィルムもおしまいだった。

フィルムカメラを持って散歩した日の最終地点は、何故かいつも面白い。

よく通る散歩ルート。いつもは何気なく見る建物のはずだったけれど、フィルムに収めるとこんなにも綺麗に見えるのは何故だろう。


そんな瞬間に出会うために、また歩く。
七十二候。
どの季節も見落とさないように、忘れないように、シャッターを切り続けようと思う。

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