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【連載小説】『パタイトのテル』2s1w「秋」

 タハトの背筋は凍るように冷たくなる。急いで近くの草むらに隠れた。

 背広服を着た黒装束のあいつらがいなくなるまで待った。

 そしていなくなった時に、恐る恐る草むらからでると、タハトは家に向かって行った。玄関から家の中をのぞくと、それはおどろおどろしくまき散らされた血と、お母さんの亡骸が転がってあった。

 お母さんのそばでタハトは崩れるように膝を地面につける。涙は、赤くなった地面に落ちると、血はトプンと波打った。

「ヒグッ!グアァ!」

 声にならない声。喉がひび割れ、痛み熱くなっていることも感じないほど大きく叫んだ。

 ああ、なんて可哀想な少年なのだろうか。お母さんが目の前で殺されてしまったのだ。とても辛いだろう。

 しかし、さらに次の瞬間。すぐ後ろから強く頭を打たれてしまった。タハトは涙でぐしゃぐしゃになって、やつれた顔が冷たい地面に落ちて、目を閉じた。この世界はなんて残酷なのだろうか。

***

 気が付き、目を覚すとそこは、真っ白な空間にいた。手足は拘束されていて身動きが取れない状態だ。

目を覚ましたといっても、あまりのまぶしさでまだ目は開ききっていない。
 しばらくするとまた視界がゆがみ出して、瞼を閉じた。

***

 目が覚めるとオレンジ色の空が見えた。立ち上がり、あたりを見渡すと森に囲まれていることがわかった。

「……」

 タハトはさっきのことが嘘のようにすがすがしく気持ちがいい気分だった。少し歩くと、この広い平原は池に囲まれているということが分かって、タハトは誰かいないか探すことにしたのだ。所々にきれいな花が咲いている、ヒマワリ、アジサイ、スイレン。

 そよ風が花びらを撫で、すーっと足元を通っていく。しばらく歩き続けていたら、子供の楽しそうな声が聞こえてきた。 声の方へ行って見てみると身長が低い子もいたり、タハトと同じぐらいの子供がいたりと、楽しそうに遊んでいる。ふと別の方へ顔を向けると、少し離れたところに大人が一人立っているのが見えた。

 その人に話しかけようと近づこうとしたとき、一人の小さな子供が割り込んできて、半ば強引に話しかけてきた。

「あのね、あのね!私アイノウ。あなたは新しく来た人でしょ?案内してあげる!」

 彼女、アイノウが言うには、ここは子供たちが集う場所らしい。なぜか広い池に囲まれていて、森には行けないようになっている。そして、子供たちはよくこの水辺に集まり遊んでいるそうだ。この島の真ん中にはテントがたくさんあって、そこで子供たちは寝泊まりをする。大人が一人いるが、だいたいはアイノウたちを見ているだけで”特訓”という時間が来ると、大人対子供全員がいろいろな競技で競い合うらしい。

 12才のアイノウはたくさん話をしてくれた。いつの間にかタハトはアイノウと友達になっていた。

 するとゴーンゴーンと鐘が広場に鳴り響く……。

 一体何の鐘なのだろうか。その鐘と共に摩訶不思議な光景が広がる。


次回 明後日 投稿……


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