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四方良しのデンマークデザイン哲学、IT大臣が詩を語る台湾

デンマーク在住のニールセン北村朋子さんと、台湾のIT大臣Audrey Tang(唐鳳)さんに、それぞれの国について話を聞く機会があった。
日本も含め「みんな違ってみんないい」なのだが、学びのメモを残しておく。

四方良しのデンマークデザイン哲学

デンマークという国は、とにかく議論好きという印象。決まったことだからやる、上から降りてきたからやる、という発想はなくいちいち議論する。
ただしその結果として、以下のような指標を生んでいる:

・World Hapiness Report2位(日本62位)、
・腐敗認識指数1位(日本20位)、
・民主主義指数7位(日本24位)、
・世界プレス自由度指数3位(日本66位)、
・SDGsランキング1位(日本15位)、
・ジェンダーギャップ指数14位(日本149カ国中121位)

指標についての議論はさておき、どうも良さそうな国である。
その要素について、「自分たちがどんな社会を創りたいか」について、市民や政府とも議論し、哲学とビジョンがあることを挙げてくださっていた。

例えば政府機関や行政UXもデザインしているというDanskDesignCenter(DDC)は、そのデザイン哲学を「Dansk Design DNA」として次の形にまとめている。

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出典:DDC_website

1)合理性
  ソーシャル、人間らしさ、ホリスティック(全体的)
2)アプローチ
  良質の、ユーザー主導型で、変革を起こすような
3)基盤
  工芸技術、長持ち、事実に基づいた、シンプル

つまるところ国の形であり、人々の哲学である。
これに基づいて様々なものが「デザイン」されていく。
デザインは家具や建築の意匠だけではない。アスリートのトレーニングからセカンドキャリア、新北欧料理、都市と地方の関係、自転車専用道路の在り方、なども「デザイン」されていく。そこにはoutcome思考がある。「箱モノを作って終わり」的なoutput思考とは対照的なものだろう。

これらのデザイン哲学に基づいて、デンマークの人たちは様々なissueを、自分ごととしてみんなで議論して前に進んでいく。
そこには「ものごとの本質の見直しと再定義」の議論があるとニールセン北村さんは指摘してくださった。

たとえばエネルギー問題でも、「安全供給と持続可能性とは?」という本質を国民で議論し、原子力発電ではなく、風力発電を選んだ(北海油田の存在も大きいという指摘もあった)。教育についても、「民主主義とは、教育とは何か?」を考え、教科書や試験に頼らない対話による生きた学び、という本質にたどり着き、フォルケホイスコーレを創っていく。

民主主義とは何か?についても国民的なコンセンサスがある。

・1)プロがいない
 誰もシナリオを知らない。
 その場の状況とリソースで対応し続けなければならない
・2)正解も完成形もない
 常に現在進行形だが経験はある。対立は日常茶飯事
・3)もれなくついてくる。全員が決定者
 様々な考え方の人がいる。
 誰一人排除せず、最善の妥協点を探す必要がある

・4)加えて、四方良し
 売り手、買い手、世間良し。そして「未来良し」を至上とする。

これを、幼いころから議論し、自分たちで決め、民主主義を「気づいたら当たり前のものとして」身に着けていく。そこには政府と市民という対立構造が前提なのではなく、全員が当事者、という構図がある。

かつての計画経済的、高度成長期的な、未来シナリオが予測可能だった時代は「企画者と消費者」の関係性でよかったのかもしれない。ただしVUCAの時代は誰も答えを知らない。情報をオープンにして、最善の計画立案に心血を注ぐよりも拙速で進めてどんどん改善していくという形の方が、時代にfitした考え方のように思う。

IT大臣が詩を語る、台湾

台湾、Audrey Tang(唐鳳)氏のメッセージ、思考哲学。PLAZMAというイベントの中で紹介された。

氏については、こちらの記事も興味深い。

上記デンマークと同様のものを感じる。
これはもう「時代性、時代のセンス」なのだろうと思う。

・「入閣時、特に年配の方々から反対意見はあったか」という質問に対して「私は政府と一緒に仕事をしているのであって、政府のために仕事をしているわけではない。私は世代間、セクター間、文化間の連帯を構築するチャンネルだ」

・「英語で大臣は『Minister』だが、私は小文字の『minister』と説明している。大臣という中国語を英語に訳すと"みんなの使節団""派遣団"という意味になる。デジタル担当の代表者も複数いて構わないだろう。多様な価値観を持った方々が共通の価値観を見つけるためにディスカッションできるスペースを提供している。私自身は徹底的な透明性を追求してきた。閉じられた場所で選ばれた人だけが会議をするような縦割りを取り払った活動を続けている」。

台湾での活動に根差す精神についても説明する。
・「fast(速さ),fair(公平さ),fun(楽しさ)が重要だ。オープンに議論し素早く進める、だれも排除しない、そして政府の活動であってもお祭りのように楽しい。この3つを念頭に置くと、そういった(既存概念からの反発のような)ネガティブなものを、Co-Creation, 共創の概念に変えていけると思います」。

最後を詩の朗読で締めくくっていたのが非常に印象的。テクノロジーは手段であり、哲学や詩のようなものによって、目指す世界へのアナロジー、ビジョンを描いていくのだろうと思う。

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どちらの国も決して楽園ではないし、誰かに与えられたものでもなく市民が自らの手で作り上げてきたもの。そうであるだけに、この「裂け目があるからこそ、そこから光が差し込むのだ」の表現は素晴らしいものがあった。




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