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オトコ親

大学生の頃だ。

その日も近道すべく、軽トラが一台通るかどうかの細道に原付バイクを滑らせようとした。

その瞬間!
死角からこれまた中型のバイクがブォンと突如現れ、間一髪すれ違った。

いや、ミラー同士がかすったかもしれない。

あぶねー。と思い。振り返ったが相手側も無事なようだ。

私は軽く目で会釈をしてそのまま走り去った。

そこから2分ほど走っただろうか。
赤信号で止まった。

すると、さっきの間一髪すれ違ったおじさんが横につけてイキナリ怒鳴りつけてきた。

「おい!くそガキ!さっき睨みつけただろ!!」

とのことである。
私はそんなつもりは全くなかったので、
「いやいや睨んでないですし、大丈夫かなと振り返って確認しただけです」
と返すも、怒りが収まらないらしい。

いやいや
てめー!こら!
いやいや
睨んでたじゃねーか!

の押し問答してたら青信号になった。

面倒くさっと思って、そのまま発進しようとすると、ヘルメット被った私の頭を思い切り殴ってきた。

ヘルメットの上からだったので全く痛くもなく、発車したばかりの青信号を逆走する機転も効かなかったので、そのままスゴスゴと原付走らせて実家に帰った。

おじさんはワザワザ文句を言うために目的地を逆走してきたらしい、殴ったあと、また反対側に向かって走っていった。

が、なんとなくイライラである。

家に帰って起こった事を夕飯食べてる家族に話すと、親父が血相変えて立ち上がり、どんな奴だ!!今からぶちのめしに行ったる!!と怒り出した。

私はイラついてはいたが、まぁ痛くなかったし、まぁええか。くらいに思ってたし、ちょいとクダを巻くくらいのノリで喋っただけだったのだが、親父のこの反応にはビックリした。

ナンバーも見てないし、追い掛けるのも今更無理なのだか、今にも家を飛び出さん勢いだ。

何故か私が親父をなだめ、大丈夫大丈夫と言い聞かせると少し落ち着いて席に戻った。

が、なんか妙に覚えているエピソードである。

あれから数十年が経ち、自分も人の親になった。
二児の女の子のオトコ親である。

今であればあの親父の烈火の怒りは分かる。

しかし、当時の自分は何故にあのように取り乱す程怒るのか分からなかった。
それはつまり親父の愛情の深さを理解していないのと同義である。

やはり親の心子知らずなのである。
恐らく今現在、子供に口やかましく言っても通じないであろうし、響かないであろう。

だが、それで良いのだ。
数十年後に子供たちが自分のために真剣になってくれたと思い出す瞬間があれば。

その瞬間にオトコ親としての器量を見せねばなるまい。
その瞬間以外はだらし無くてもいいのだ。

多分、そうに違いない。

その瞬間のためだけに心の準備だけはしておこう。

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