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クダギツネ。

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『外は冷えるのだから突っ立ってないで早く上がらせろ』言わずにもせっつく雪乃さんは僕の背に顔を埋もらせた。

 ……折り鶴?

 モノクロの羽根に読み取れる “ 岩手新聞 ” の文字。さしずめ新聞紙で折られたようだけれど、どうにも腑に落ちるモノでない……夕べにいそいそと店の営業へと向かい、連だっての帰宅……詰まるトコロそれは無人の部屋に突如と現れたことになるんだ。
 
 いっぱいに広げたであろう新聞紙から折られた鶴は、到底郵便受けから入るサイズではない。それがまるで主人を待つ猫のよう、くちばしを向け出迎えたのだから。
 並ぶ雪乃さんの靴に尽きたよう覆っている “ 異質 ” 。それに僕はつま先をにじらせていた。

ーー

 “ 蛇女 ” ……藍香さんと過ごした一夜の事だ。

「……君がいつも脇に連れているのは誰? 随分と幼い女の子の様だけれど」

 水飴のような熱っぽさが粘度を無くした頃、不意に藍香さんは僕の左側を指さして傾げそうに唇を滑らせた。

 あぁ……それは雪乃さんも不可思議がっていた事だ。それが “ 幽霊 ” なのか、自身で作り出したヒトガタなのかは分からな……いや、雪乃さん、藍香さんが傾げたモノは僕の妹である “ みやび ” なのはきっと間違いが無いのだろう。

 妹は高校を卒業してから芸能活動をしていた。兄、身内としては誇らしい事であったのだけれど、それは妹にとって想像を絶する負荷があったのだろう……自害、じきに海という川の下流で発見された。

 随分と年の離れた兄妹だった故に、共に過ごした頃は雅が幼少の頃だけだった。しかし「何ひとつ……」と言葉を詰まらせている僕に藍香さんは言ったんだ。

「……自害? その子はそう言っていないみたいだけれど」

ーー

「随分見ないと思っていたら……水月は惚れらたのやもしれないね、これはきっと藍香さんからの送りモノなのだろさ」

 ……バサッ

 解いた鶴を四つに折った新聞紙を差し向け、雪乃さんが指をさした。

『レーベルフォックス。プロデューサー、マネージャー他2名。歩道橋の階段より転落死』

ーー

 転落して首を折ったのか、首を折ってから転落したのか……何が罪で何が偉業かなんてのはさ、きっと誰にも決められはしないんだよ。

 水月は惹き寄せるのやもしれないね。藍香さんはまるで陰陽師が飼っている “ クダギツネ ” だもの。

 随分な味方をつけたモノだと雪乃さんは紫煙を揺らす……

「でもね、知っている? クダギツネがその気になればね、陰陽師なんてのは一口で食べてしまえるんだよ」

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