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縁結び。

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「……こんな話を知っている?」

 猫の唇から幾度と溢していた彼女に託された木箱。その中で錆び朽ちていてた手の平ほどの短剣は乱雑にすかりと埋もれている事だろう。 

『コイツはきっと私を近寄せないでくれるのだから』

 あれから僕は随分と髪を伸ばしたようだ……風も無く深々と雪だけが舞う夜にそれは風鈴のよう、いつまでも横髪を揺らし続けていた。

「昔からそう。アイツは突然現れて忽然と居なくなるのよ」

 美奈さんの肩に三回、僕はくすぐられたようにクシャミをした。

ーー

 独り仕事で赴く事になった東北の宮城県。その帰路、少し遠回りになったのだけれど “ 縁結び ” として有名だとされている佐沼津島神社に向かった。

 主要都市の仙台市内でレンタカーを借りたのだけれど、事情的にとカーナビ無しを選択したのがマズかった……僕は二度、三度と山深くに道を彷徨ってしまったんだ。

 最中、当地の仕事上の人間に携帯電話からカタコトなナビゲーションを貰いながらと、ようやくな手間で辿り着いたソコには随分と迫力のある鳥居が聳えていた。

ーー「縁結びって……水月ぃ、君はいったい何を連れて帰ったんだい?」

 雪乃さんから聞いた話だ。

 オピツタエって言い方もあるのだけれど、陰陽師の果てが鬼のようにね、天狗は坊主の成れの果てなんだよ。

 滝行ってあるでしょ? あれはさ、山に入る前に人間の “ 匂い ” を消す為なんだ。山中他界、異界と言うじゃない。
……ダメなんだよ、天狗の居る山で自分の名前を知られてしまうのは。

 淀んでまっているのはそれだけで厄介なんだけれどね、もしキミが死んでいるモノだとしてさ、それを自覚していたらどう行動する?

 ほとんどのヤツは自覚が無いんだけれど、身体が無いと知っても尚淀みに彷徨っているのがさ……次第によっては天狗や物の怪に成りうるんだよ。

 それは荒魂あらたま和魂にぎたま。千手観音は半分武器を持っているように陰陽、表裏一体なんだよ。増してスサノオを祀っている神社では尚更さ。

 祈りなんてのは視点を変えれば誰かの呪い……でしょ? 時の真実なんてのは群衆の思い込みなのだから。

ーーあながち幽霊にナンパでもされたのだろうと、ケタケタと赤いキツネに顎を乗せた雪乃さんは、その時随分と穏やかに見えていた。

「ん? 私の他界との境界線は下着でしょそりゃ」

 ……知っていますか? クシャミ三回は “ 惚れられた ” なんですよ雪乃さん。

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