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海外駐在前に読みたいおすすめ書籍 #3 - 多様性の科学

自己紹介

ご覧頂きありがとうございます。新卒で食品会社に就職し、営業職を経験したのちにアメリカの子会社に赴任。約10年間海外駐在しています。
自分自身への備忘録も兼ねてアメリカでの体験や自身の考えをnoteに残していきたいと思います。同じ境遇やこれから海外に挑戦したいという方にとって少しでも参考になれば幸いです。

はじめに

読書というのは自分ではない誰かが人生をかけて得た知識や経験を疑似体験できる非常に素晴らしいものだと思います。

海外駐在に向けては渡航する国によって、すべき準備は変わってくると思いますが、読書は渡航先に関わらず大きな助けにとなると考えています。

自分自身が実際に読んで、これは海外駐在前に知っておきたかったなと感じた書籍を紹介させていただきます。

おすすめ書籍#3:多様性の科学(マシュー・サイド著)

近年、日本でもダイバーシティやインクルージョンといったキーワードがよく聞かれるようになってきたと感じます。ただ、これらのキーワードが単なる言葉だけで終わっており、本質的な取り組みが不足している印象を受けます。

この状況は、日本の特殊性が大きく影響しているように思えます。日本は長い歴史の中で同一民族で文化や社会システムを構築してきました。そのため、多様性を経験した歴史が少なく、むしろ同一性を武器として現在の地位を確立してきたのではないでしょうか。

このような歴史や文化の背景を持つ日本人が海外で働く際には、その特異性を認識し、マインドセットを変える必要があります。この本は、特に日本人にとって多くの洞察を提供してくれる素晴らしい本だと思います。

この本では、アメリカのCIAやイギリスのサッカー代表など、同一性が高い組織が直面するリスクや、多様性を取り入れて成功した組織の事例が紹介されています。これらの実例は具体的で、実用的な一冊でありながら、読みごたえのある内容です。読み進めていく毎に、多様性の本質が明らかになってくるでしょう。

私自身、アメリカで長く就業している経験から多様性には2段階あると感じています。1段階目は守りの多様性。2段階目は攻めの多様性です。
ご存知の通り、アメリカは多くの移民で成り立っている多文化国家です。国の成り立ちからして多様性が高い国家であり、そういう意味では同一性が極めて高い日本とは正反対です。

多文化ということはいろんな”常識”が存在することを意味します。
そのような環境下で社会システムを運営していくためにはその多様性を受け入れる仕組みが必要となってきます。その仕組みが契約(社会)であったりITシステム、公用語としての英語だと感じています。

それらの仕組みが整っているために、アメリカではいろんな文化背景をもった人々が社会システムに組み込まれ国家を運営していくことが出来ます。
これにより例えば人材調達要件が下がり事業運営レジリエンスを高めることにつながっていると感じています。

逆に日本の場合では、外国籍社員を雇用している企業も増えてきているかと思いますが、日本人社員同様に働ける環境を整えられているかというと多くはそうなっていないだろうと感じています。

そしてそんな外国籍社員に期待していることは、彼らの長所を取り入れることではなく、日本人同様に働けるように慣れてもらうことなのではないでしょうか。
つまり、現在の日本におけるダイバーシティはマイナス(外国籍社員としてのハンデキャップ)をゼロにする取組であり、ゼロをプラス(新たな付加価値を生み出す)にする取組みにはなっていないように感じます。

それとは逆にアメリカをはじめとする多文化国家は既に第一段階の守りの多様性(マイナスをゼロに)ということはある程度実現しているのです。実際、アメリカではあまりダイバーシティやインクルージョンといった言葉は聞きません。なぜならそれが当たり前の状態だからです。
それが2段階目の攻めの多様性につながってきます。

攻めの多様性とは本書でも取り上げられていますが、今までになかった観点を取り入れることで能動的に新たな付加価値(イノベーション)を生み出す取組みです。

イノベーションと言えど、何もなかったところから全く新しいものを生み出すことというのはむしろレアケースです。むしろ多くの場合はもともとあったものを別の角度(場所や用途、時代など)から見て、新たな価値を見出したというケースが大半だと感じています。

そういう意味ではいかに多くの角度から物事を見るかということが重要になってきます。それなのに外国籍社員を日本人に近づけてしまうことは物事を見る角度も近づけてしまうことになります。

多様性は何も日本人と外国籍という二元論ではありません。
日本人の中にも面白い視点を持った方はいると思いますし、得意分野も違って当然です。

教育現場でも社会でも日本は苦手なところに焦点を当てるところがあるように感じますが、そこに時間を割いてしまうと得意なことを伸ばす機会を奪ってしまう可能性があります。
それは新卒一括、終身雇用というメンバーシップ型雇用を前提としたシステム(どんな仕事についても役割を果たせるジェネラリストを育成する)だと思いますが、このVUCA時代にあってはそれぞれの特性(得意分野)をマネジメントして配置し、組織としてのバランスを最大化することが求められているのではないでしょうか。

バランスが取れたレーダーチャートを持つ(その変わり平均的に小さいレーダーチャート)メンバーを集めても、能力が重複してしまい総量としての面積は広がりません。
しかし、得意なことが突出しているレーダーチャートを持つメンバーをバランスよく配置することが出来れば総量としてのレーダーチャート面積最大化が図れます。それは最終的には競争優位性につながってくることでしょう。

一人一人の日本人の基礎能力や問題意識の高さは世界トップレベルだと思います。そういう意味では実は日本は多様性を既に持った国家だと感じています。しかしそれを受け入れる土壌がないように感じます。その土壌が育ってくると、日本の未来は明るいのではないかとついつい感じてしまいます。

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