書評・AI vs. 教科書が読めない子どもたち
【問題】
1980年代末から90年代初頭にかけて、主に家電などの分野で宣伝に利用された『ファジィ』という言葉がある。
①そもそもファジィ論理とはいかなるものか。
②ファジィ論理はどのような家電にどのような形で応用されたか。
③なぜ現在はファジィを宣伝しなくなったのか。
以上の3項目について、それぞれ140文字以内で説明せよ。
(制限時間5分)
日進月歩の現代。技術の刷新と話題性の劣化は加速度的に早くなっている。トレンドに乗り遅れることは、競争力を逸することであり、人々は情報の生産と摂取のみならず、理解さえ効率化を求め始めている。
故に、理解されるよりも早く名前が広まってしまうことも珍しくない。
本書では今最も注目される『AI』なるものに対し、片手間な理解と刹那的な興味を引くためだけの解釈をすることがいかに危険であるかが説かれ、そして思いもよらない現代教育の危機が浮き彫りにされている。
著者の新井紀子氏は数学者である。数学者がAIの本を書くの?と思ったあなたは既に2周遅れている。コンピュータは数学が生んだのだ。
氏は2011年から『ロボットは東大に入れるか』なるプロジェクトを牽引してきた。AIってとっくに東大入れるくらい進んでんじゃないの?と思ったあなた、1周追加。
氏とメンバーはプロジェクト開始から、東大に入れるとは考えておらず、AIに出来ることと出来ないことを詳らかにするアプローチとして東大受験をしているのだ。
囲碁やチェスで人間を打ち負かし、あなたの手元のスマホから人間のように語りかけて来るAIが、受験でつまずく様は想像しづらいかもしれない。だがそれこそがAIにできないことであり、シンギュラリティがこない所以であるようだ。
シンギュラリティを知らないないあなたはもう1周追加。
冒頭の問題で出たファジィにしてもそうだ。人の生活を豊かにする先端技術のトレンドワードと持て囃され、様々な機器に自慢げに張り出されたが、その特徴や効用を正確に把握していた消費者は、どれほどいただろう。
そして今なお、ファジィ理論は大活躍している。と聞いて、驚かない人はどれくらいいるだろうか。
技術が先入観と誤解で解釈されることの副作用。あなたが今持っていいることにさえ気づかないそれを、本書は容赦無くあぶりだす。
しかして私が最も驚いたのは後半。中高生の読解力の危機だった。
これはもう何を書いてもネタバレになるし、あなたにも私が感じた寒気を共有してほしいので、委細は本文に譲るが、読む前の心の準備として、氏が中高生に実施したテストに、あなたも挑戦して見てほしい。
次の文を読みなさい。
Alexは男性にも女性にも使われる名前で女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。
この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる
最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
Alexandraの愛称は( )である。
① Alex ② Alexander ③ 男性 ④ 女性
さて、あなたは何番を選びましたか?
その答えであっていますか?
ではこの問題を、何%の中学生が『間違え』何%の高校生が『間違え』たと思いますか?
十代の子を持つ(持つ予定の)親御さんには、特に青くなって頂きたい。AIどころじゃない問題がそこに現れるのだ。
しかして本書は、警鐘をガンガン鳴らして耳目を集める羊飼い文書ではない。これから来るものと起きない変化を整理し展望し、我々とその子供、孫の世代に必要とされるものは何か。そのヒントを確かに与えてくれる。
今の子供たちがつく仕事は今存在しない仕事だ。という言葉もあるが、その時存在しなくなる仕事があるとしたらどうだろう?
AIを知らない人も知ってるつもりの人も、AIとの付き合い方を見直す手がかりにいかがだろうか?
で、本当にその答えであってますか?
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