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[瀬戸芸2022] 女木島 -高松港から20分,島旅とアート鑑賞をコンパクトに楽しむ

 高松港から小型フェリーで20分の女木島(めぎしま)。

高松港。高松→女木島→男木島の往復となり、女木島まで20分、男木島まで40分

 かの「桃太郎」が攻め入った鬼ヶ島伝説のある島と言われており、山頂には「鬼ヶ島大洞窟」なる観光名所もある。他方で、大竹伸朗(おおたけ・しんろう)、レアンドロ・エルリッヒといった人気作家の作品も鑑賞できる、アートの島でもある。

 瀬戸内国際芸術祭の春と夏で回った、女木島の作品たちを写真でまとめてみる。※≪女木島名店街≫については、作品数も多く、春と夏ではじっくり回れていないので、秋に鑑賞したあと、3期ぶんをまとめたいと思う。

女木島港でフェリーを待つ

『カモメの駐車場』 木村 崇人(きむら・たかひと)

 女木島に初めて足を運んだのが2018年頃だと思うけれど、すっかり心を持っていかれてしまったのが、このカモメたちだ。

防波堤にひたすら一列に並ぶカモメたち
風が吹くと、ほんとうに寂しげな音を立ててキイキイと鳴る

 わたしは海に疎いのだけど、島々を回るうちに、カモメをはじめとした鳥たちが、本当にこんなふうに、防波堤に並ぶことを知った。

目に見えない風のかたちをカモメの向きで視覚化
女木港の防波堤と防潮堤に、ずらりとカモメが並ぶ。その数、およそ300羽。風が吹くと一斉に向きを変えるさまは圧巻だ。

女木島 作品 より

 フェリーの発着時間以外は静かな島なので、シーズンオフに訪ねた際は、防波堤の広い部分に座って、カモメたちがあちこち向きを変えるのを見つつ、読書するなどして過ごしている。

『20世紀の回想』 禿鷹 墳上(はげたか・ふんじょう)

 一瞬で心を奪われる、は、この作品もだ。カモメたちと同じく、港に展示されている鑑賞無料作品だ。フェリー乗り場にも近いので、帰り際にもゆっくり鑑賞できる。

ピアノの帆船。アイデアそのものがドラマティック

ピアノと波の音のコラボレーション
青銅製のグランドピアノと、4本の帆によるサウンド・インスタレーション。ピアノから流れる音楽が、目の前に広がる海の波の音と呼応しながら旋律を奏でる。

女木島 作品 より
鍵盤の一つ一つも美しい


『女根 / めこん』 大竹伸朗(おおたけ・しんろう)

 個人的には、女木島といえばやはり、この作品が浮かんでくる。それほどインパクトが強い。

小学校であるというのも、なかなかパンチが効いている

校舎から校庭まで大竹テイストが随所に
島で育った大きな椰子の周りに、タイルのモザイクやワニのオブジェ、船材などを配置。休校中の小学校と植物、作品が響き合う。
作品所蔵=公益財団法人 福武財団

女木島 作品 より
リアル秘密基地のような、はちゃめちゃな世界観
もちろんそこには美がある
こんな小学校に通いたかった(笑)

『ISLAND THEATRE MEGI 「女木島名画座」』 依田洋一朗(よだ・よういちろう)

 畑の向こうの建物に、「名画座」とある。

劇場内をペインティング、ロビーにはブロマイドも
古い倉庫を活用し、シアター仕立ての絵画と映像によるインスタレーションを発表。マンハッタンの懐かしい劇場の記憶を凝縮する。

女木島 作品 より

 まるで、作家の脳内の映画館に迷い込んだような、ふしぎな空間だ。

扉を開けて、急な階段を上がっていくと
本物のスクリーンが現れた

 2階には、本当にのスクリーンがあり、チャップリンの無声映画が上映されていた。鑑賞している人たちも。

  外に出てみれば、そこは畑と島の風景で「うーん、夢だったのか?」というシュールな感覚が味わえた。

『不在の存在』 レアンドロ・エルリッヒ

 レアンドロ・エルリッヒといえば、金沢21世紀美術館に恒久設置されている『スイミング・プール』、2017年の森美術館で開催された「見ることのリアル」(すごく楽しかった!)でも人気を博していた『建物─ブエノスアイレス』が十和田市現代美術館に常設されたり(行かなければ)、白井屋ホテルにコラボルームがあったり(高いけど泊まりたい)、とにかく人気のアーティストだ。女木島には2作品ある。

入口手前側の座敷

 『不在の存在』はとても奇妙で、それゆえに記憶に残る作品だ。上の写真、向かって右側の「鏡」には、カメラを構える筆者が映り込んでいる。では左側はといえば、鏡ではなく、奥には手前側と瓜二つの座敷がある。

向かって左が通路。奥にある座敷へ

客同士が出会い共有できる空間を創出
改装した空家に作品2点を設置。不在の可視化がテーマの体験型作品レストランと図書室を併設。
作品所蔵=公益財団法人 福武財団
実施設計=後藤哲夫(VAKA)
レストラン運営=NPO法人瀬戸内こえびネットワーク
協賛=日本たばこ産業株式会社

女木島 作品 より
よりリアルな錯覚のためか、まったく対照的に同じ照明が置かれているとともに、奥の座敷は全体に傾斜している

 上の写真は、今度は奥の部屋。左側の鏡には、再びカメラを構えた筆者が映り込んでいる。

 種明かしをしてしまうと「なーんだ」なのだけど、部屋全体を完璧に傾けるなんて、手の込んだおおがかりないたずらを見せられた気がして、思わず笑ってしまう。「出会い共有できる空間」とコンセプトにあったけれど、たしかに話も弾むかもしれない。レアンドロ好きな人と、彼の作品の一発芸的な面白さ(失礼。すごくリスペクトしている)について、語ってみたい。

図書館も併設
中庭も鑑賞できる

≪女木島名店街≫『ランドリー』 レアンドロ・エルリッヒ

 レアンドロ・エルリッヒのもう一つの作品は、という建物1棟を使った≪女木島名店街≫の中に。

一見すると、ちょっときれいめなランドリー
向かって左側は、本物のランドリー。実際に洗濯もできる
右側は、洗濯物がぐるぐる回転するようすが流れるアート
掲示。こういう手の込んだところがとても好き

映像と実物の洗濯機と乾燥機で虚構と現実を混在
島の中の小さなお店プロジェクトの一環として、コインランドリーを思わせる空間が出現。洗濯物が回転する映像が流れる洗濯機を一面に置き、もう一面に本物の洗濯機と乾燥機を設置。虚構と現実を同じ空間に混在させ、鑑賞者を戸惑わせる。洗濯することで作品を体験することもできる。

女木島 作品 より

 「は?」「だから何なんだよ」という声も聞こえてきそうなのだけど、そういう人たちを尻目に、いたずらが成功した子どものごとくガッツポーズ、そんな作家の姿を勝手に想像し、ほくそ笑んでしまう。

 全力をかけていたずらをやりきる、観ている人を笑わせたり(あるいは、怒らせたり)する、しかもそれが、批評性の高い作品にもなっている、という点で、とても洗練されたアートだと思う。

≪夏公開≫『ナビゲーションルーム』 ニコラ・ダロ

 島の北東に、この夏新しく公開された作品。

海風が通り抜け、作品がゆらゆら揺れる様にも癒される

架空の海を渡る航路を見つけるための航海装置
女木島東海岸の旧海の家。12か月に対応する曲を奏でるオルゴールと、天体の動きを模する3台のスティックチャート(木の棒を組み合わせた海図)が連動し、それらを接続するディスクが波打つように上下動しながら回転する。現代のオデュッセイアがたどる航路を物語る、機械仕掛けのプラネタリウム。

女木島 作品 より
オルゴール部分

 動いているところを観ないとなかなか説明が難しいのだけど、なんだか、この小さな空間が世界を動かしている? という妄想まで生まれそうな、不思議な作品だ。

徒歩、または自転車で島旅

 展示作品の多くは、港から徒歩で回れる距離感だ。もし鬼ヶ島大洞窟や島の隅々までじっくり回りたいなら、レンタサイクルを利用する方法もある。

作品の場所は、案内板で掲示
小さなビーチも

 高松港を拠点とするなら距離も近く(遠くに高松港が見えるほど)、しかしビーチリゾートや「島旅」の雰囲気も味わえる、隠れスポットだ。

↓ ※瀬戸芸2022関連記事については、下記にまとめています。


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