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【写真】DIC川村記念美術館 ②建築,企画展,ロスコ壁画

 DIC川村記念美術館(千葉県佐倉市)を訪ねた、その後編。


モダニズムの巨匠による建築

 ワイナリー?(勝手な妄想)を思い浮かべてしまう外観。建築家 海老原一郎は、日本橋の旧DICの本社ビルも手掛けており、そちらは重厚な黒×窓を大きく取った、知識のない者にもモダンを感じさせる高層ビルなので違和感はなかった。しかしこちらは? と謎だった。

 公式ウェブサイトを読むと納得がいく。

重なる二つの円
プロジェクトが始まり海老原が描いたのは、クラシックな建物の装飾的要素を取り入れた“モダニスト海老原”らしからぬ設計図。絵心があり、実は壁面などの装飾を考えることが大好きだったという海老原は、機能や合理性を超えて、建物全体の印象を包むことができる「装飾」を柔軟に取り入れました。 こうして美術館のために海老原が発案したデザイン・モチーフが、「重なる二つの円」。鑑賞者を迎え入れるエントランスホールの床や天井照明をはじめ、館内の随所で目にすることができます。この「重なる二つの円」は、「作家と鑑賞者の二つの精神の出会い」そして「川村勝巳と海老原一郎の友情」という意味が込められています。

初代館長と深い縁で結ばれた、モダニズム建築の中心人物

建築家 海老原一郎
 より

 (館内は撮影不可なので、以下、文字による描写が多くなる。)

 エントランスは「重なる二つの円」をモチーフに、ステンドグラスによる装飾もある。シンプルに抑えてはいるけれど、趣味のいいお屋敷という感じだ。ただ、展示室はシンプルで天井が高く、照明もほどよい。日本を代表するインクの企業による、色をテーマにした美術館というテーマもあるので、特に「色の見え方」については、細心の注意を払っているのだろうと推測する。


ロスコ・ルームはどうだったか

 館内ではまず、常設展から、順を追って進むことになる。
 まず、「ヨーロッパ近代絵画の部屋」。モネの「睡蓮」もここにある。藤田嗣治の、乳白色のヌードを描いた3作品が展示されていたのもよかった。

 次は、レンブラントが1作品だけ展示されている「広つば帽を被った男の部屋」。

 「第二次世界大戦前後のヨーロッパ美術の部屋」ではダダや、シュルレアリスムの作品が展示される。壁にも色が塗られており、少しモダンな雰囲気だ。

 そしてその先に、「マーク・ロスコの部屋」がある。

 ちなみに、ロスコの作品とはこんな感じだ(アーティゾン美術館の、撮影許可作品)。

 DIC川村記念美術館の「マーク・ロスコの部屋」については、下記のような解説がなされている。

マーク・ロスコの連作〈シーグラム壁画〉7点を恒久展示する部屋として、2008年に増築されました。壁面に1点ずつ絵を掛けられるよう変形七角形となっており、作品に包まれる感覚を強めるため、壁のコーナーは曲面に仕上げられています。また、繊細な絵肌を引き立てるため壁には珪藻土を、床には黒く焼いたナラ材を用いて、光の反射を抑えています。

作品に合わせた空間設計

とりどりの展示室
 より

 この部屋と、うまくシンクロできなかったことは前にも書いた。

 さきに引用した「壁面に1点ずつ絵を掛けられるよう変形七角形となっており、作品に包まれる感覚を強めるため、壁のコーナーは曲面に仕上げられています。また、繊細な絵肌を引き立てるため壁には珪藻土を、床には黒く焼いたナラ材を用いて、光の反射を抑えています」という説明文。

 加えて、照明は極度に落とされていて、洞窟のように暗い。空間中央に据えられた長椅子に座っていると、だんだん目が慣れてくる。

 もともと館内に人は少なく、気配を殺してくれている監視員さん以外には自分ひとりだけ、という贅沢な時間が長かった。

 そのなかで感じた素直な身体感覚は、「とても重い」ということだ。

 ロスコ・ルームの壁画の色は、くすんだ赤と黒だ。その赤と黒は、表現しきれないくらいにバリエーション豊かな色となっている。珪藻土の壁の効果かもしれないが、空気の質感もどこか外と違う。

 わたしの身体感覚を無理に言葉にすれば、自分は水よりはるかに重量のある液体のなかに沈んでおり、その重さを全身で感じている、というところだろうか。

 人によっては、それを「包み込まれている」「心地いい」と、安心に転ずることができるのかもしれない。なにしろ、この部屋にはファンが大勢いるのだ。

 ただ、わたしは、「ちょっと違うな」とやっぱり感じてしまった(圧迫感のある空間ではないのだが、閉所が苦手、ということと関係があるのかもしれない。)

 1年に何度も訪ねた、直島・地中美術館のモネ「睡蓮」の前には、毎回30分以上佇んだけれど、そのときは水と光の中で彷徨いながら、しかしひたすら、はてしなく解放されていく感覚を味わうことができた。だから、あれほどに通ってしまった。

 これは好みの問題なのだと思う。

 ロスコの絵は好きで、ランダムにロスコの作品を紹介するInstagramをフォローもしている。美術館でふとロスコの作品に出逢うと、「やっぱり、いいなあ」と足を止めてしまう。

 でも、この空間は残念ながら、今のわたしには「違う」のだった。


「木漏れ日の部屋」で光の世界へ

 光を極力おさえたロスコ・ルームから、階段をのぼって次の展示室へと移動する。この、光に目を徐々に鳴らしていく感じがとても好きだ。

季節、空、光の移ろいを感じる展示室
2階のはじめに位置する200展示室は、展示室としてはめずらしい2つの大きな窓を持つ開放的な空間です。窓の外の木立が適度に陽射しを遮り、穏やかな光が室内を満たします。時間帯や天候により変化する屋外の光をスクリーンのように映し出す白い空間は、訪れるたびに異なる表情で鑑賞者を迎え入れます。

同上

 作品からほどよい位置に置かれた長椅子に座り、ぼーっと画面を眺めては、視線をずらして大きな窓の向こうの木々を見る。そうしながら、これまで鑑賞してきた作品が、自分の中に落ちてくるのを静かに待つ。


企画展 ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室


 かなりボリュームのある常設展を鑑賞した後、順路は企画展に続く。

概要
ジョセフ・アルバース(1888–1976)は画家、デザイナー、そして美術教師として知られています。ドイツで生まれた彼は、造形学校バウハウスで学び、のちに教師となって基礎教育を担当しました。同校の閉鎖後は渡米し、ブラックマウンテン・カレッジや、イェール大学に勤務。戦後アメリカの重要な芸術家たちを育てました。
(中略)
本展ではアルバースの作品を、彼の授業をとらえた写真・映像や、学生による作品とともにご紹介します。制作者/教師という両側面からアルバースに迫る、日本初の回顧展です。

ジョセフ・アルバースの授業

色と素材の実験室
 より

 展示は4部構成で、その中の「3章 イェール大学以後―色彩の探究 (1950–)」に、最も興味を惹かれた。作家自身が、絵画シリーズ〈正方形讃歌〉について語るフィルムとともに展示された、作品の数々だ。

…一方、この年から20年以上にわたって続けられた絵画シリーズ〈正方形讃歌〉は、正方形による決まったフォーマットに色彩を配置した作品で、隣接する色同士がさまざまな効果を生み出しています。色彩を移ろいやすいものと考え、そのはたらきを動的に捉えようとするアルバースの探究が、ここには反映されているといえるでしょう。画家としての彼を一躍有名にしたこのシリーズとともに、主著『色彩の相互作用』(邦題:『配色の設計』)にも使われた学生の作品を展示することで、アルバースの色彩への取り組みを再考します。

同上

 例えば正方形の画面の中に、小さなものから大きなものまでが重なる形で、規則的に4色の正方形が描かれ(塗られ)ている。最少のものが黄色、次が明るい茶、その次が暗い茶、最大のものが緑という具合だ(サイズの違う折り紙を、大きなものが下になるようにしながら重ねた感じ)。

 その、隣接する色をよく眺めてみると、それらが押し合うといった動的な効果が見て取れる。特に、作家本人が作業を見せながら、〈正方形讃歌〉の何たるかを説明していくようすは、「なるほど」と。文章での説明では、なかなか入ってこなかったと思う。


散策路からバス停へ

 美術でも映画でも、なにか鑑賞したあとには、余韻を楽しむ時間が必要だ。

 ここでは、バス停までの散策路を歩きながら、観てきた作品たちについて思う時間を、十分に取ることができる。

 企画展は9月には一部展示替えもある。また、本当にオフシーズンとなった時期に、常設展だけを観にくるのもいい。

 また訪れるのだろう、と思いつつ。




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