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十字路

俺は一体何を跪こうとしてんだい?

そこに行って必死になって何かを祈ってりゃ、誰かがそれ見て救いの手を差し伸べてくれる……。

懇願するかのように御慈悲を神様にお願いすりゃあ、きっと助けてくれるもんさ。

まあ…

世の中そんなに甘くはないね。

誰も俺のことなんか気付きはしねぇさ。

気付かないふりをしているだけなのか?

いやいや、元々視界にさえ入っていないわけか。

気付かない事を、そもそも気付いてないだけかもね

通りでみんな通り過ぎていってしまうわけだ。

人が必死になってアピールしてんのに。

どうしようもないね。

こんな虚しい気持ちは誰にも伝わらないさ。

そぅ、伝わったって何とも思われやしない。

おっと…

そうこうしているうちに、日が沈もうとしてやがる。

太陽も俺のことを忘れてしまってるのかい。

もしくは哀れなお前に用はないってか?

酷いよね。

真っ暗じゃないかよ。

どうしろってんだい。

これ以上沈みようがないじゃないか。

たまらないね。

じっとしてたらきっとキツイ事になりそうさ。

走って行こう。

そう、走らなきゃ。

この胸に巣くう「ブルーズ」をあいつに伝えないと。

どうしようもない気分なのさ。

あぁ、神様。

このどうしようもなさを何故、俺に与えなさったのか。

償却しきれない思いを一体どうしろってんだい。

こんな切ない気分が、生まれてからずっと側で横たわっているのさ。

そんな気分を励ましてくれる、優しい女が欲しいのに。

「ブルーズ」

こいつはどこにも行こうとしやがらしねえ。

俺のことがそんなに気に入っているのか?

お前は一体何なんだい?

常に俺の横で悪さをしやがる。

なあ、いい加減にしてくれないかい。

今日という今日は闇夜の晩であろうが、神に祈り、跪いて救いを乞うのさ。

お前が悪さをしないようにな。

月の光が照らす、この街を出てゆくには打ってつけのあの「十字路」で。

一晩中でも跪いてさ。

祈ってやるのさ…。

何なら悪魔に魂を売り渡してでも、

お前を操り、俺は自由になってしまうのさ。


ロバート・ジョンソン。

クロスロード(十字路)で悪魔に魂を売り渡し、それと引き換えに天才的なギター・テクニックを身に着けたという逸話はあまりにも有名な話。

そしてロバート・ジョンソンが歌う「クロスロード・ブルース」。

「クロスロード・ブルース」といえばエリック・クラプトンがカヴァーしたバージョンが超有名だと思われる。

折角なので動画を張り付けてみました。

ヤング・クラプトンが印象的なクリーム・バージョン。

このリフとギター・ソロがあまりにも有名で、とてつもなく良いですよね。

話を「十字路」に戻そう。

歌われた十字路は一体どこなのか…。

色々な説はあるそうだ。

ただその十字路はカントリーな場所に所在していたのであろう。

想像だが、曲が発表された頃(1930年代)は、夜になるとその十字路周辺は漆黒の闇が辺りを覆っていたと思われる。

そんな場所で一人跪いて一体何を祈っていたのか?

神様にお祈りをして救いを求め、十字路で親指立てて乗せてもらおうとアピールしても、誰にも気付いてもらえやしない。

あぁ…

俺はこの十字路のブルーズにやられている。

友達のウィリーに教えてやってくれよ。

独白のように進んでいくクロスロード・ブルーズ。

重くて、苦々しいようなテクスチャーは一体どこから来るのか。

そんなものは考えても分かりはしない。

考えくらいなら、この切ない思いを癒してくれるような優しい女がそばにいてくれたら…。

東を見ても、西を見ても、全く何もかもが一緒のようなものさ。

だったらいっそ魂を売ってしまい、それを表現するすべを求めてしまえば良いのさ。

なぁ、神様。

俺にどうしろっていうのか…。

そんな胸に去来した思いを、歌詞などを参考にし、想像でもって書いてみた。

この時代、そのある場所で生きることを「ブルーズ」し、抱えきれない、そしてどのような角度で解釈しても消える事ない「ブルーズ」を唸ったロバート・ジョンソンの「クロスロード・ブルース」。

ロバジョンの演奏はひたすらに切なく、痛切に感じる。

思いなんてものは、果たしてどこまでが「思い」として通ずるのか。

そう、そこがきっと今の世の中にもヒントの部分があったりと。

敢えて跪いて祈りをして、御慈悲を乞うような「虚しさ」を表現しているわけではないんだから。

「クロスロード・ブルース」

奥の深い世界だ。


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