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何故、市民による政治の象徴であったアメリカの政治は衰退してしまったのか?:企業・団体献金規制の意義を考える

はじめに.

私の過去の数々のnoteにおいて、連邦制レファレンダム制度等、アメリカ建国当初から存在する"市民による政治"の呼べる文化について、度々触れてまいりました。

実際、成文の憲法典、大統領制、法律等の合憲性に関する司法審査制度等も、アメリカから誕生しております。


しかし、現在のアメリカ社会に目を向けてみれば、政治が上手くいっているとは、到底言える状況には無いと思います。

何故なら、政府の使命の一つとも言える貧富の格差の是正が全く行えておらず2020年の大統領選においては、ドナルド・トランプ元大統領の敗北を受け、大量の暴徒が議会に押し寄せる等、他国から見ても解るほど、政治の不安定な状態だからです。


ですので、本noteでは、"何故、政治への市民参加の文化が根強く存在しているにもかかわらず、アメリカ国民の納得がいかないような政治が行われるようになってしまったのか?"という事について、最近話題になっている企業団体献金に関連させた上で、私なりの考えを述べさせていただこうと思います。




1.拡大するアメリカの貧富の格差

最近、アメリカにおいて、万引きが急増していたり、薬物中毒者が急増しているというニュースをよく目にします。

そういった事態が生じている大きな要因として、当然、貧困の蔓延が挙げられるでしょう。


アメリカの教育格差

まず、アメリカにおいては、所得格差によって生じる大きな教育格差が存在するとされております。

例えば、貧困家庭の子供達は、保育園や幼稚園に通う事が出来ず、いきなり小学校に通うしかないそうです。

しかし、その一方で、富裕層の子供は、2歳~3歳からフランス語教育を受けている等、英才教育を受けるられるそうです。

つまり、アメリカの教育格差は、2歳~3歳の時点から既に始まっており、大学卒業までの間に、その格差は一方的に広がっていくという事です。


また、一説によると、貧困家庭に生まれた子供達は、15歳を超える頃になっても、ろくに読み書きが出来なかったり、30分の授業を集中して受講できないような子供もざらに存在するとされております。

つまり、アメリカの場合は、一定程度の富が無ければ、日本の義務教育レベルの教育を受ける事が出来ないと言える訳です。


富裕層の子供と貧困層の子供では脳の大きさも違う!?

科学雑誌ネイチャーに掲載された論文によると、カリフォルニア州ロサンゼルスに住む1099人の子供達の脳をスキャンした結果、年収2万5000ドル未満の貧困層の子供達の脳の表面積は、年収15万ドル以上の富裕層の子供達より、最大で6%も少ないという調査結果が出たそうです。

また、同研究では、"貧困層になると、年収レベルでわずか数千ドル下がっても、子どもの言語、読み書き能力、意思決定、記憶力などが特に低下する。親が貧しいと、幼児期に感性や学習能力を刺激するための玩具などが不足し、両親と過ごす時間が十分にないことが悪影響を及ぼしているからだ。"とも示されているそうです。

更に、アメリカの貧困層の方々の食事というのは、ファストフードやインスタント食が中心であるそうなので、貧困家庭の子供達が、十分な栄養が摂れていない事も、上記の調査結果の大きな要因となっているでしょう。


以上の事から、子供の頃に、一定水準以上の教育を受けられなかった方々は、大人になっても、学歴社会のアメリカにおいては、就業にも苦労する事になり、実質的に、政治に参加する権利を奪われていると考える事が出来ます。

何故なら、一人の市民として、真っ当に政治に参加するためには、日本で言う小学校から高校レベルの最低限の一般教養を身に着けている必要があるとと考えているからです。


2.ロビー活動の存在が、アメリカの政治を完全に破壊した

早速ですが、私は、ロビー活動の存在が、アメリカの政治を完全に破壊してしまったと考えております。

過去のnoteにも、アメリカの大企業のロビー活動を、幾度か取り上げさせていただきましたが、GAFAMのような大企業は、毎年、巨額の資金をロビー活動に投じております

それ故、ロビーストの、連邦議会における影響力は甚大で、ロビーストに従いさえすれば、各議員達は、莫大な利益を受け取る事が出来るとされておりますので、ロビーストに逆らう事は殆ど難しいとされています。


そして、アメリカの政治は、二大政党制で成り立っておりますので、理論的には、アメリカの大企業が、ロビー活動を通じて、両政党の議員達を買収してしまえば、金輪際、大企業にとって、都合の悪い法律は作られないような状態を作る事も可能であると言えるでしょう。


Occupy Wall Street(OWS)に参加した若者達の主張

Opinion Watch Listen Live TV Sign in Think Occupy Wall St. is a phase? You don’t get it

現在のアメリカでは、日本と同様に、大学を出ても、就職先が無いという現象が起きているようです。

勿論、高卒以下の人々でも就けるような仕事の求人はあるそうですが、アメリカの大学の授業料は日本と比較にならない程高く、殆どの大学生は、奨学金を借りて大学に通っているという背景があるので、十分な給与が得られる仕事に就けなければ、奨学金を返済する事は難しいでしょう。

そういった事情背景の中、2011年9月17日に起こったOccupy Wall Street(OWS)と呼ばれるデモ活動においては、大学を卒業したのに就職先が無い無職の若者や、現役の学生達が、多数参加いたしました。

そして、参加した若者達が、口々に揃えて言ったのは、"99%の富を独占してしまっている大企業の拝金主義のせいで、貧富の格差が拡大し続けている。"という趣旨の発言だったという事です。


アメリカの二大政党制の特殊性

アメリカは、表向きは二大政党制による政治を行っているとされていますが、その様相は、他の国の政党政治とは、全く異なるとされています。

その理由としては、個々の議員の権限が強く、党議拘束も存在しない等、各議員は、共和党や民主党に所属しているとはされるものの、他国政党システムと比較して、政党への所属意識がかなり低い点にあります。

そして、アメリカ連邦議会においては、議員一人で、議会に提出された法案を修正出来る事から、"議会で審議される全ての法案は、非常に、企業や利益団体の影響を受けやすい"状態となっております。

つまり、極論、企業や利益団体は、連邦議会の議員を一人でも買収する事が出来れば、自分達に都合の悪い法案の成立を完全に阻止できるということです。


その一方で、日本の政治に視点を移してみると、党議拘束が存在したり、党総裁にあらゆる権限が集中する等、企業や利益団体が影響を及ぼし難い組織体制となっております。

ですので、日本の政党政治においては、個々の議員の権限や発言が抑制され、総裁や幹部の意見だけが、反映されてしまうというデメリットがあるものの、その一方で、企業や利益団体という外部からの影響を受けにくいというメリットも存在すると言えるでしょう。


3.政党・大企業等・官僚間の関係性

政党・大企業等・官僚の勢力拮抗図

上図の勢力拮抗図は、私が作ったものになりますが、赤い矢印が"敵対"を意味し、そして、青い矢印が"協力"を意味しております。

そして、上図を見て頂ければお解りいただけると思いますが、私が思うに、政党にとって、企業・団体というのは、協力者であり、それと同時に、敵対者でもあると思っております。

それは、政党と官僚間の関係性についても、同様です。

つまり、何が言いたいかと申しますと、政治家や政党というのは、大企業や利益団体、官僚と常に戦う必要があり、その勝負に負けてはならないという事です。

具体的には、仮に、大企業や利益団体との戦いに、政治家が敗北した場合、アメリカのように、その大企業や利益団体に、ほぼ全ての政治の実権を握られてしまい、大企業が真の支配者と言えるような社会になってしまうという事です。


4.議員歳費は、政党が、大企業や官僚と戦うための軍資金である

少々話が逸れてしまいましたが、前章で述べた通り、政党と言うのは、常に、政治を自分の都合の良いように動かしたい大きな資本を持った集団に着け狙われているという事です。

なので、議員の給与がある程度高額であったり、議員定数が多かったりという事は、そういった資本を持った集団に、政治の実権を奪われないための対抗策であると考えられる訳です。

更に、企業・団体献金を完全禁止にしてしまえば、政党は、企業・団体との、政治の実権の奪い合いを繰り広げる必要が無くなると言えますので、企業・団体献金の完全廃止というのは、政治家の独立性を高める上で、更に有効な対抗策であると考える事が出来るでしょう。


しかし、現実世界においては、第三章の拮抗図のように、当事者が三者のみという事は有り得ず、数多くの組織が、政党や政治家に影響を与えようとしてきます。

例えば、海外政府というのも、その代表例と言えるでしょう。

確かに、法整備を行い、未然に、政党が、海外政府や企業・団体等と一切の関係を持てないようにする事は可能だとは思いますが、法の抜け道を利用されたり、完全に、それを実現するという事は難しいのではないでしょうか。

そして、どんなに、利益団体との関係を断った所で、官僚との関係を断ち切る事は出来ません。


なので、海外政府等の勢力が、政治に影響を与えようとしてきた場合、企業・団体のような別勢力と協力し、それに対抗する事が必要な場面も起こり得ると思いますので、完全に、企業・団体献金の完全廃止が正しいとは、言い切れない訳です。


5.かたや、独裁国家は上手くいくのか?

アメリカにおいて、格差の是正が中々行えない要因の一つとして、個々の権利が、強固に保障され過ぎている事が挙げられると思います。

例えば、憲法によって、企業や個人の財産権が強く保障されているため、課税が行い辛かったり、教育の場面では、どんなに子供達の態度が悪かったとしても、体罰は厳格に禁止されております。


そういった事を踏まえると、独裁国家の方が、国民や企業の権利主張が制限されている事から、格差の是正も行い易いと考えられます。

更に、独裁国家であれば、3章で述べたような、政権運営に影響を与えるような団体が存在したとしても、一方的に弾圧する事が可能となるので、順風満帆な政権運営をする事が出来ます。


独裁国家は必ず没落する

ですが、私は、個人的に、独裁国家は、必ず没落するのではないかと考えております。

確かに、政治が上手く行った場合は、独裁国家の方が、民主主義国家に比べ、経済や国力を圧倒的なスピード感で成長させる事が出来ます。

しかし、成長速度が急速であるという事は、それと同時に、転落のスピードも急速であると考える事が出来るのではないでしょうか。


つまり、独裁体制の場合、好調である時と不調である時の波が激しく、独裁者も人間であるため、やがては老いや慣れによって判断力が鈍っていきます。

そして、最終的には、不調の割合が増えていき、最終的に、国家は、元より駄目な方向に転落してしまうと予想しております。


政治権力の分散が必要

ですので、安定性を維持した上で、国家を発展させるためには、人材を定期的に入れ替え、常に最適な人材を前に出すというような資本主義の基本姿勢の基、国民にも、政治権力に分散させる事が重要なのではないかと思う訳です。

そして、国民に政治権力を分散するためには、国民一人一人が、しっかりと政治力を持つという事が、必要となります。


6.新自由主義とは何だったのか?

かつて、アメリカのロナルド・レーガン大統領が、"新自由主義"と呼ばれる政策を提唱し、世界中で流行った事があります。

その内容としては、公営化事業を次々に民営化し、徹底した減税を行い、小さい政府を目指すというものです。

しかし、その結果、どうなったかと言えば、富める者は富を更に拡大させ、貧しい者は更に貧しくなるといった負のスパイラルが繰り返される事となりました。

つまり、これまでの内容を踏まえると、"新自由主義とは、真の支配者を大企業に移し替える行為に他ならなかった"という事が出来ます。


7.真の支配者は、官僚か大企業のいずれかになる

勿論、今後独裁政権が誕生する等のイレギュラーが生じた場合は別ですが、日本は、このまま官僚を真の支配者とした社会であり続けるか、それとも、アメリカのように、大企業を真の支配者とした社会になるかの2択のいずれかの道に突き進むしかないと思います。

そして、私を含め、多数の識者が、"大企業が社会を支配するのであれば、官僚に支配されている方がマシだ"と考える事は間違いないでしょう。

何故なら、言うまでも無く、官僚(国家公務員)というのは、64万人もの人員を持つ、国家運営のノウハウを持ったプロ集団であるからです。

また、官僚の採用方法も、試験採用制度が採られているため、ある程度学問に見識があり、倫理も備わっているようなエリート集団だとも言えるでしょう。


その一方で、大企業の経営者というのは、たまたま運良く会社経営が成功しただけで、学問への知見がない経営者も山程いると思います。

やはり、そう考えてしまえば、官僚に国を任せる事が正解だと言えるのではないでしょうか。

そして、その体制を維持するためには、議員達が、大企業から賄賂を受け取るような事を防ぐ施策が必要で、尚且つ、小さい政府(新自由主義)を掲げるような政党は支持しないという事が必要であると思います。


8.アメリカの大企業や富裕層は、政府を信用していない

しかし、アメリカの大企業や富裕層が、貧困者に目もくれず、一方的に富を蓄積する事を企んでいるかと言うと、そうとは言い切れない部分もあります。

例えば、アメリカにおいては、ベンチャーキャピタルが多く存在し、将来有望な若者やベンチャー企業に対し、無担保で、何十億という大金を投資すると言われております。

つまり、アメリカの大企業や富裕層は、"政府に、社会政策の主導権を握らせるのではなく、自分達の裁量で、社会政策を実施したい"と考えているともとれます。


その理由としては、アメリカの大企業や富裕層が、アメリカ政府に対して持っている不信が挙げられるでしょう。

アメリカ行政府の上級職の官僚は、政治任用制という、非常に政治の影響を受けやすく、不安定な採用方式を採っているため、官僚達の実施する政策というのも、政権交代毎に大幅に転換してしまいます。

また、アメリカの連邦議会も、党議拘束が一切なく、個々の議員の権限が強力なため、方向性が読みにくいと言えます。

そういった事から、アメリカの行政府や立法府が、大企業や富裕層の不信を招き、結果的に、アメリカ政府そのものに対する不信を招いているのだと推定されます。


9.しかし、それでも献金制度は資本主義を維持するためには必要である

これまでの章では、行き過ぎた企業・団体の献金の存在が、国家にとって有害である側面のみをクローズアップいたしましたが、最後の章では、逆に、"献金制度は、何故必要であるのか?"について、私の考えを述べさせていただきます。

まず、献金制度が無かった場合、どのような社会になってしまうと予想出来ますでしょうか?


仮にそうなってしまえば、政党や政治家達は、企業・利益団体の事等を考えず、"国民の票"を得る事を最優先として、動き始めるでしょう。

そうすれば、"大企業や利益団体を解体して、その金でベーシックインカムをやろう!"とか、"大企業や富裕層へ、もっと課税しまくろう!"とか、そういうポピュリズム的な政策が、次々に施行されていき、資本主義国家としての日本は、終焉を迎える事でしょう。

つまり、"企業や利益団体、富裕層よりも、国民大多数の意見を優先すべき"という発想は、共産主義的思想と言える事もあり、企業・団体献金と言うのは、そういった数の暴力、言わば、共産主義的な革命を起こさせず、資本主義を守り切る上で、非常に需要であると、言う事が出来ます。


まとめ.

最近では、中国の次の経済が伸びそうな国として、インドが挙げられていますが、私は個人的に、ドイツやスイスのような、国民の政治力が高い欧州各国の方が、経済の伸び代は大きいのではないかと考えております。

そういった民主主義がしっかりと機能した国々においては、経済の速度は遅く、少しずつの成長する事しか出来ないでしょう。

しかし、堅実な成長であるからこそ、落ちた時の下げ幅も、少なく済ませられるはずです。


かたや、アメリカに視点を移しますが、今の現状を考えてしまうと、"共和制民主主義を追求した結果、たどり着いた末路は、巨大企業に国家を完全に支配されてしまうという悲惨な結末だった。"と、残念ながら思えてしまいます。

やはり、合衆国憲法の憲法改正のハードルも非常に高い事から、アメリカが、大企業支配から抜け出し、格差の是正を行う事は、かなりの困難が伴うでしょう。

しかし、それでも尚、アメリカは、経済成長をし続けており、現状一番将来性が明るい国だと考えられますので、10年~30年後、"やはり、アメリカは正しかった"と言えるような結末になっている事も否定出来ないのが現実です。

結局、企業というのは、国家の生命線であり、企業無くしては国は成り立ちません。

ですから、アメリカ程、企業に恵まれた環境は作る必要はないにしろ、ある程度は配慮する環境を作れなければ、日本全体が沈んでしまう事は間違いないと思います。


本記事の締めくくりとなりますが、私が、本記事で最も伝えたかった事は、"如何に、企業・団体献金が危険であるか"という事です。

勿論、8章でも述べた通り、企業・団体や富裕層の献金は、一定程度、政治に対して、お金持ちの意見を優先的に反映させるという意味で、非常に重要な意味を持ちます。

ですが、1章~7章でも述べた通り、行き過ぎた献金によって、一部の富を持った大企業のような集団が、社会全体を支配してしまうという危険性も、同時に孕んでおります。


ですから、私の結論として、両方のバランスを取る形として、寄付や献金の規制については、1法人当たりに、その額の上限を設ける等、今より厳しい規制をしても良いのではないかと思っております。

政治献金の規制については、色々な主義主張があるとは思いますが、大企業や富裕層の肩を持ってしまえば、現代憲法以前の状態に逆戻りする危険性は大いにあり、そうなってしまえば、無政府主義と変わらない状態と成り得ますから、多少は一般庶民が有利でいられるようなルールであるべきだと思っております。



参考文献.

・アメリカ下層教育現場 (光文社新書)

・「教育超格差大国」アメリカ (扶桑社BOOKS新書)

・アメリカの政党政治 建国から250年の軌跡 (中公新書)

・格差大国アメリカを追う日本のゆくえ

・ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書 新赤版 1112)

・ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書) (岩波新書 新赤版 1225)


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