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韓国ドラマを見るための医学知識(7)~体内の巨大情報ネットワークかもしれない経絡 「ホジュン~伝説の心医~」から~

伝統医学では「経絡」という言葉が度々使われます。すでにご存じの方も多いと思います。
「経絡」は目に見えません。しかし、臨床の現場では、経絡を意識して、重視して治療します。経絡を使って治療すると、症状がよくなったりします。

今回は、その見えないけれど非常に重要な「経絡」について解説します。

全身一筆書きでめぐることができる経絡

第54話では、山陰(サヌム)のユ医院で一緒に働いていたホジュンの兄弟子であるイム・オグンが科挙二次試験の背講(ペガン:医書の内容を暗記暗唱する試験)に臨むシーンがありました。
このシーンで、出題されたのが経絡の一つである「手の陽明大腸経」の「流注(るちゅう)」を答えるものでした。
(註)流注:身体のどこを流れているかという走行場所、ルートのこと

このシーンでは、経絡が身体のどこを通っているかを暗唱するものでした。オグンは緊張のためか、勉強不足のためか、うまく答えることができず、早々に暗唱に躓き、退席せざるを得ませんでした。

「手の陽明大腸経」は「経絡」と呼ばれる身体をめぐる回路の一つです。「経絡」は、伝統医学で身体を動かす物質の運行、病気になる要素の伝達、身体の主要な器官である臓器などをつなぐ、「回路」のことです。
人には、12本の経絡があり、それぞれ重要な体内の臓器と連携しています。手の指、頭の先、足の指まで経絡が通っており、一筆書きのように1本の回路でつなぐことができます。
*経絡にはその他に「奇経」とよばれる臓器などにつながらない経絡もありますがここでは割愛します。

ちなみにオグンに出された「手の陽明大腸経」は、人差し指から手首、肘、肩、首、(口の中を通って)、人中、鼻というルートを通ります。左右の人差し指から出発し、人中で交差しています。
前述したように、このルート上には臓器につながっているようには見えません。

これが経絡の難しくもあり面白い点になります。

実は上記で記載したルートは、途中(首のあたり)から「支脈」になります。
本脈は肩から、首の後ろをを通りそこから身体の内部に入り「肺」、「横隔膜」を通過し「大腸」に到達します。
このため「大腸経」と呼ばれます。

下記の図は古典医学書の一つである「十四経発揮」に記載されている図です。
胸のあたりに「絡肺」お腹のあたりに「属大腸」という文字が見えると思います。実線で示されていますが、実際の経絡では体内を通るとされています。

十四経発揮 経絡図 手陽明大腸経

情報ネットワーク経絡

鍼灸治療では、経絡を活用した治療法が多くあります。
経絡上には経穴(ツボ)が配置されていて、特に重要なツボにはその効能や作用が定められています。上記の図で漢字で記されているのがツボになります。

鍼灸治療などを受けていて、例えば腰痛を足や手で治してもらった経験がある方がいらっしゃるかもしれません。頭が痛いのに全く違うところで治療し、それが奏功するのは非常に不思議で信じがたいところもあると思います。

経穴には効能が定められていると述べましたが、もう一つ、経絡の流れに留意して治療することがあります。

例えば「足の太陽膀胱経」と呼ばれる経絡があります。目頭から頭頂部、首の後ろ、背中、臀部、大腿部後面、ふくらはぎ、足の外踝、足の小指のルートを通る経絡です。

十四経発揮 経絡図 足太陽膀胱経

腰背部を通過しているため、ツボの効能、作用などを勘案して治療を行うことで症状の改善を行います。

第54話の中でホジュンには「五刺、九刺、十二刺がありそれぞれの輸刺の違いについて」という問題が出されました。
この中の五刺は、症状がある場所に応じて指す鍼の場所が定められたガイドラインのようなものです。
ちなみに五刺の輸刺には、「病気や症状が五臓(肝心脾肺腎)にある時には手足末端近くのツボに鍼を刺す」とされています。

経絡というネットワークを活用して治したい場所に、効果効能があるツボを活用してその情報を伝達する。これが経絡を活用した治療法の一つです。

巨大ネットワークだからできる様々な治療方法

韓国ドラマを見るための医学知識(5)~治療法が同一でないことによる不信感と症状がよくなること」でも記載しましたが、鍼灸治療では同じ症状でも治療方法が異なることがあります。

治療方法が同じでないことの理由として、さらに、この人体をめぐる巨大ネットワークが関係しています。

鍼灸治療では、多くの場合、仰向け、うつ伏せの状態で治療が行われていると思います。しかし、腰が痛くてあおむけでの治療ができない方も来院されます。このようなケースでは、仰向けでしか治療ができないツボではなく、他のツボで治療をすることがあります。
これは、経絡という人体全体につながる巨大ネットワークなどを活用した治療法になります。


最後に、この目に見えない経絡を、現在はどのように把握しているかについて記載します。
経絡がどのように走行しているかについては、ホジュンやイムオグンが暗記したように、現在でも古典文書のまま記載されています。
しかし、経穴(ツボ)については、2006年に世界保健機関(WHO)および西太平洋地域事務局(WPRO) による経穴部位国際標準化公式会議で世界的に共通した場所として決まりました。
現在では、解剖学的に「○○骨の外側を通る」「○○骨と△△骨の中間」など、経絡の通っている場所が分かるようになっています。

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