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香りは私の欠落を決して埋めはしないから

自分という存在をこの手でしっかりとつかみ取りたくて、誰からも疑いようのない存在でいたくて、そう強く願っていた20歳そこそこの時に香りの世界を知った。
コンプレックスや自信のなさや社会への違和感を解消する術を必死で探していた頃。
香りの世界に入って、「これでもう私は大丈夫、すごいものを見つけた」と思った。学生インターンのくせに、あちこちで、それこそ靴下を買ったお店の店員さんにさえ「私、香りの勉強してるんです」とか「将来は香水を創るお仕事をするんです」とか言いまくっていた。
あの頃の無防備さや浅はかさと同時にエネルギー、集中力は自分事ながらまぶしい。

長い長い年月を経て・・・。

自信なんてない、コンプレックスを抱く場面も少なくない、自分という存在は、うたかたみたいにつかみどころがなく、形を常に変えていく。

そういう自分を愛しみたい。見事に欠けていて、不用意に出っ張っていて、おかしいくらい膨らんでいて、悲しいほどドライでウェット。
それが、いいよね。
香りがそう語りかけてくるから、その言葉に耳を傾ける。

香料を調合していくとき、個性の強いものも、親和性の高いものも、見事としかいいようのないくらいに溶け合って、互いに邪魔をせず、溶け合っているのに一つ一つが、完全にそこに存在している。

私の中の凹凸も、私と周囲の凹凸も、同じ。

香りで欠落が埋まることはない。
香りが教えてくれたのは、欠落を愛して、出っ張りを愛でて、欠落も出っ張りもかけがえのない自分の一部として、たまに抱きしめてあげること。

香り、その思い、呼吸。

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