香りと意識

Short story_零の香り

*****物語をインスパイアする香り・薫りたつ物語の実験******

アスファルトの上にリズムを刻むヒールの音に集中する。
それでも流れ込んでくる決壊した街に溢れる情報。
信号待ちの交差点。クラクション。大型ビジョン。広告。
:何も自分に強いることなく、ゆるりと自然のままに生きていこう。
:毎日が燃え尽きるほどの情熱の日々でなければ生きる意味がない。
:自分の中にあるコアを大事に。
:さあ、新し

もっとみる

玉手箱

Pleasures ESTEE LAUDER by Annie Buzantian and Alberto Morllias, in Firmenich

この香りを纏うようになって、四半世紀が経った。

そんな事実が、まるで他人事のように思える。だって私はまだあの頃と変わらず同じ電車に乗り、ファッションやメイクに興味を持ち、次の冬の旅行の計画や、美容院の予約、週末には友達と新しいビストロに行く約

もっとみる

Short story_土地風土

Diptyque PHILOSYKOS

「どうしたの?」
「いや、なんだか。沖縄で飲んだ時とは感じが違うなって。」
そう言って、男は泡盛のグラスを置いた。
那覇の郷土料理屋で飲んだ泡盛が気に入って、700mlの一瓶を東京への土産に持ち帰った。沖縄で飲んだ泡盛の、強すぎるアルコールの刺激を越えた馨しい香りや喉越しには感動というのがふさわしいほどの驚きと喜びがあった。
東京に戻り、家のテーブルで沖縄

もっとみる

Marguerite

生花:マーガレット

マーガレットはあの夏ずっと、白い花を絶やさなかった。
伸びるままに任せた苗は瞬く間に木質化し、
茂みとなって庭の一角を塞いだ。
花の可憐さとは程遠い野生。
触れればキク科に特有の、苦みを含む青臭さが手に残る。
あの頃のメタファーとして繰り返し蘇る白い花弁、深い緑の葉、青い匂い。

手に入れたいものはたくさんあった。

何一つ叶えられる当ても無いのに、絶えなかった望みの数々。

もっとみる

柔軟剤が柔軟でなかった件

最近洗濯の際に柔軟剤を使うのを止めました。と言うのを何処かに書いた気がする!

こちらの記事で柔軟剤の事に少し触れています。

柔軟剤使うのやめて数ヶ月が経ちましたが、使わなくてもゴワゴワしないです。洗う物の質感にもよりますが。
タオルもフワフワしています。
使用しなくなって、柔軟剤の香りって結構キツイなと言うことです。香水は好きですが、強い香りには酔ってしまいます。柔軟剤の香りでそれが起きる時が

もっとみる

fifteen

特別な懐かしさのある音楽の心地の良さに酔っているうちに、過去の奈落に引きずり込まれている。これまでに創り散らかしてきた幾つもの世界の断片。完成を見なかったそれらを無理に押し込んだ闇の底。時折、好きだった世界の記憶を拾い上げては口に含み、その感覚をこっそり味わっている分には問題無かった。戻り方を忘れて、意識が闇に混ざれば戻れなくなる。噴き出す悲しみや不安、不満。それらはもはや過去のもの、過ぎ去ったも

もっとみる

Short story_亡姿実在

ミルラ_調香原料

「お父様はね、姿は無くなってしまったけれど、魂は雄太の近くにいつもついていてくださっているのだからね。」

その日初めて会った、チリチリパーマ頭のおばさんは、僕の手をぎゅっと握ってそう言った。お母さんは今まで見たことがないほど泣いていた。僕はずっと泣いているままのお母さんの腕を掴んで揺すって、なんとか顔を上げさせようとしてみたが、知らないおばさんにそれを止められた。その黒いワン

もっとみる

今日の食材 セップ茸

セップ茸=ポルチーニ茸のフライ。
香り、ジューシーさ、まさに揚げ物は蒸し物というかんじ。おいしかった。旬は夏だけれど、いたまないように秋口からしか輸入できないらしい。

エリンギみたいな軸だけど、マツタケとおなじく菌根菌で、生きている木にしか自生できないため人口栽培できていない(昨年のバカマツタケ人口栽培成功には狂喜したけれどその後どうなんだろう)。エリンギは椎茸とおなじく腐生菌で欧州原産。いまこ

もっとみる

Column_フローラル/グリーン

イリスとポプリ

対照的なふたつの香り。
両方ともにボトルの中が残り僅かになった。
現在販売されている同品はボトルがモデルチェンジした。
同じサンタマリアノヴェッラの特別な香りの抽出液、トリプルエキス、が製造中止になったのは、老舗の瓶製造工房がクローズしボトルが供給されなくなったためだと本店で聞いた。
ブランドを問わず、香水もボトルもともに良いものがに失われている。
一方、かつて在る特別な店でしか

もっとみる

Short story_奏

香料原料_クラリセージ

***********

バッハの無伴奏チェロ組曲。
コントラバスがソロで奏でる。
拡がる袖から出た腕が楽器を抱く。薄い羽織が風を孕むと光を賺して空気の動きを可視化する。
祖母の越後上布を仕立て直して着た羽織。

違和感があるのは、楽器の前に並べられた、会議室用のテーブルと臨時に並べられたパイプ椅子。
開かれたドアからはスーツ姿の外国人を含む男性が数人ずつ現れ、銘々にパイ

もっとみる