見出し画像

子供の発達障害急増の謎〜Part1:10年間で倍増、その背後に潜む理由とは?


このブログ記事は、文部科学省の調査によって示された発達障害の増加について考察しています。記事は以下のポイントを述べています:

1. 発達障害の実際の増加か?:調査結果は発達障害自体の増加を示すものではなく、教師から見た要支援児童/生徒の割合を報告しています。発達障害の実態を評価するには、他の疫学調査データが必要です。

2. 先生の価値観の変化:発達障害に対する認識は変化し、以前は否定的だった価値観から肯定的なものに変わっています。この変化が急増の背後にある一因と考えられます。

3. 教科による認識の違い:教科によって発達障害の認識が異なり、一部の生徒が特定されにくいことが示唆されています。

記事は、発達障害の増加についての誤ったラベリングや偏見、早期支援の重要性、そしてインクルーシブな教育環境の未来についても触れ、子供たちが最良のサポートと機会を得られるように取り組むべき課題について議論しています。


文部科学省の調査で明らかになった発達障害の急増

子供の数が減る一方で、発達障害の子供は増え続けています。

特別支援学級の在籍者数は2011年度の約15万人から2021年度には約32万人に倍増しています。

文部科学省が2022年12月に発表した調査結果によると、通常の小中学校に通う生徒の8.8%が、「読む」「書く」「計算する」などの学習障害や、「不注意」「対人関係を築くのが苦手」などの行動面の困難さを抱えています。これは、11人に1人が発達障害ということになります。

文部科学省「学校基本調査」

前回の調査は10年前に行われ、その時の割合は6.5%でした。調査方法の一部に変更があったとはいえ、10年間でこれほど急激に増加するのは異例。このような状況の中、学校で何が起きているのか、多くの関係者が疑問を抱いています。

本当に発達障害児が急増しているのか?

1. 発達障害そのものの増加を示す調査結果ではない

この調査結果は、発達障害そのものの増加を示すものではありません。この調査は、文部科学省が2022年1月から2月にかけて、全国の公立小中学校から抽出した担任教諭の回答をもとに、いわゆる「教師から見た要支援児童/生徒の割合」を報告したものです。そのため、実際に発達障害が増加しているかどうかを評価するためには、他の疫学調査データが必要です。

2. 先生の価値観の変化

私が教員だった15年ほど前は、発達障害自体があまり知られていませんでした。しかも当時のベテラン先生、校長、副校長たちは、金八先生世代、つまり1970後半から80年代にかけての校内暴力や体罰の最も激しい時代に教員になった人たちでしたので、
「発達障害は甘えだ」とか「もっと厳しく教えるべきだ」など、
発達障害の存在自体を否定する先生も少なくありませんでした。

こうした先生方が定年退職された今、学校現場では発達障害や特別支援に対する意識が高まり、体制も少しずつ整ってきています。ですから、発達障害が倍増した背景には、これまで「甘え」「怠け」と言われていた子どもたちが、発達障害である可能性があることを、先生方が認識するようになった結果とも言えます。

3. 教科による認識の違い

また教科によっても、その判断は大きく異なります。

例えば、私のように英語科では、ディスレクシアが顕著に現れる傾向があり、15年前でも、生徒の約20%は何らかのサポートが必要だと感じていました。ディスレクシアの生徒の中には、他の教科や自分の得意分野では才能を発揮する生徒もいます。例えば、数学や美術、音楽の分野では問題がない、もしくは優れている場合は、その教科担当の教師は、その生徒が学習障害を持っていることに気づきにくいため、見逃してしまうことがあります。

ですから、この文科省の調査は、それぞれの教師による主観的な調査のため、正しい結果ではないことがわかります。

認識の高まりと誤ったラベリング

学校における発達障害への認識の向上は、当事者への支援を強化し、インクルージョンを促進する上で非常に有益です。しかし、少し変わった問題行動をする児童・生徒に対して、すぐに「発達障害ではないか?」と疑わないように注意することが大切です。これは、「助けを必要としている子供を特定しよう」とする善意の試みかもしれませんが、素人判断でのレッテル貼りは危険です。このような先入観や偏見を通して子供を見ると、子どもの本質をとらえることができず、大切な面を見逃してしまうかもしれません。

早ければ早いほど効果的

児童・生徒の発達障害が疑われる場合、大抵の先生は早急に発達検査を受けて欲しい」と思うものです。この背景には、日本において、特別支援教育や通級のサポートを得るためには、医師や専門家からの診断が必要だからです。インクルーシブ教育が発展途上の日本においては、通常学級での特別支援には限界があります。そして特別な支援は早ければ早いほど効果的だとわかっているからです。

診断名は問題を解決しない

しかし、ほとんどの発達障害は、診断されたからといって、すぐに治るわけではありません。診断自体が、子どもたちの問題を解決してくれるわけでもありません。むしろ、診断は個々の子どもの特性やニーズを理解するため、適切な支援を提供するための出発点でしかありません。
重要なのは、診断がある無しに関わらず、子どもたちが直面している問題や課題に対して、継続的な支援やサポートを提供することです。

保護者が抱く偏見

発達障害についての社会的な認識は確かに広まっていますが、残念ながら特別支援に対する偏見はまだ根強く存在します。すべての親が、自分の子供の課題や障害を受け入れることができるわけではありません。そのため、これらの子供たちに必要な支援や援助が遅れることがあります。この遅れは、これらの若者たちが成長期において重要なサポートや機会を逃す可能性が高まるという悲しい結果につながりかねません。

インクルーシブな教育の未来

私は教育者として、正式な診断の有無にかかわらず、支援を必要とする子どもたちに適切な支援を提供できるインクルーシブな教育環境を作りたい、変えていきたいと考えています。インクルーシブな教育環境なら、誰がなんの障害を持っていようが、保護者が受け入れようが受け入れまいが、そんなことは関係なく、全ての子供たちが、自分の能力や可能性を最大限に引き出すことのできる教育環境で学習できますもんね。
そのための具体的な方策については、また後日、ブログ記事で詳しく取り上げたいと思います。








https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6424539/

Mokobane, M., Pillay, B. J., & Meyer, A. M. (2019). Fine motor deficits and attention deficit hyperactivity disorder in primary school children. South African Journal of Psychiatry, 25. https://doi.org/10.4102/sajpsychiatry.v25i0.1232


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?