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考察記事 【規格は自分で決める、顧客との心理的距離デザイン戦略】

こんにちは、アグリパッドを運営していますモンドワークス株式会社です。アグリパッドは農業の現場の声を可視化し、農業経営をサポートするサービスを農家さん、農業関連事業者に開発提供しています。

本記事は、松本自然農園の松本さんが以下のインタビュー動画で語ってくれた情報発信に対する考えのエッセンスを抽出し、まとめた文章となります。

一言一句聞きたい方は動画も是非見てみてください。(ちょっと長いです)


--------------------🙌ここから下は考察記事です🙌--------------------


《はじめに》

「情報を発信する」ことの歴史を古くまで辿ると、最古の情報発信は何になるでしょうか?古代の人々の生活様式を緻密に描いたラスコーの洞窟壁画は、二万年前の人や動物の生き方を洞窟の壁面という媒体を通して、長い刻を経て現代の私たちに情報を発信し続けていることになります。それから紙、新聞、テレビ、パソコン、そしてスマートフォンと媒体は変化し、情報の塊を誰かに届けるのに二万年かかっていたものが今は秒単位で地球の裏側まで届けることが可能となりました。あらゆる産業で情報を発信することが基本施策の一つとして位置付けられ、私たちは溢れる情報の中で取捨選択を求められる時代となった一方、農業分野では情報発信の意義や多くの事例は見られません。そんな中で現役農家兼農業Youtuberとして農業経営について発信を続ける松本自然農園の松本直之さんに農家として情報を発信することの意義や根底にある考え方について聞いてみました。


松本自然農園を始めて15年が経つ松本さんの農業の始まりはごく一般的な出合いだったと言います。システムエンジニアとして勤務した後、自転車で日本一周の旅をしていた際に日本全国の田んぼや畑を目に焼き付けました。やがて各地を巡り様々な人との出会いを通して、旅路で目に映る畑や田んぼの中に漠然と「農ある暮らし」を求めるようになったそうです。

長野県で農業の研修を受けた後、いざ就農するための農地を探すために役所を訪ねた際ある言葉をかけられることになります。

「同じ有機農業をしている人は100万円ほどしか稼げていないよ。」

松本さんはこの言葉を聞いた時はショックと共に、怒りのような感情も入り混じっていました。もし自分がこのまま考えなしに有機農業をしていたら、後に有機農業を志す人に対して同様に失敗例かのように引き合いに出されるかもしれない怒りの奥に、手間のかかる“有機農業”と“収益性”のバランスを両立させる覚悟を決めた転換点だったと振り返ります。

そうと決めたら前に進む。就農前から考えていた野菜セットの販売など事業計画に落とし込み、そしてもう一つ農園の経営方針としてある考え方を決めたことが「いかに手を抜くか。」

松本自然農園で手を動かすのは松本さんただ一人。収穫はもちろん、梱包や配達、お客さんとのコミュニケーションも全てこなすのは15年前の就農時から変わらないスタイル。有機農業をしていくことは手間暇がかかってしまう途方もない作業であり、重い負担がのしかかる。一人で動くからこそ、与えられた時間の中で徹底的にアクションの優先順位を決めた。

「手を抜く」とは何をしないかを突き詰めて考え抜くことだった。

するべき事としない事をあぶり出し、しない事を決めたら必ずしない、優先すべきタスクがあればそれを完了させ作業を終了。そこまでシビアに切り捨てる理由が、有機農業がそれだけ手間がかかることを身を以て理解し、自身の労働コストを度外視する有機農業への考え方に疑問を持っていたからです。

「本当に細かい部分まで気を遣っていたら時間がいくらあっても足りないですね。」

加えて、日本の農業、とくに有機農業に限って言えば良いものを作りすぎていると呟きました。作業の時間に多くの時間かけてしまう考え方は理解できるが、良いものを作りすぎているという言葉には疑問を感じた。その品質があってこその日本の農業だと思っていたが、松本さんの考えでは、優先順位をつけて多くの時間はかけない。だとすれば収穫物の品質に影響があるのではないだろうか、と疑念を抱いたのは確かだ。ですが要らぬ心配でした。
松本さんに品質がどこで担保されているかを尋ねると、こう答えてくれました。

"外部が規格を決めるのではなくて、自分で品質の規格を決めるんですよ。"

通常、市場に出荷する農家であれば出荷するための作物の規格サイズは決められているが、松本さんは直接注文してくれたお客さんにのみ販売する形態。だから松本さんが消費者の手元に届ける時、味や鮮度、そして松本さんの言葉が揃って松本自然農園の品質になるのです。つまり、松本さんは自分の野菜セットを買ってくれる顧客との距離感を縮め、正確に把握していることが品質の真意だったのです。

加えて、松本さん自身で顧客との距離をコントロールすることも品質向上の鍵になると言います。顧客と対話できるチャネルを多く作り情報発信することで、松本自然農園を顧客の身近な存在にしていくことで新規顧客の獲得を支えています。情報発信の手段は、SNS(ソーシャルネットワークサービス)はもちろんのこと、自社ウェブサイト、ブログ、そして農業Youtuberとしても活躍するなど多岐に渡ります。

ここまで徹底的に顧客との距離を縮めるために情報を発信している中で苦労や困難があるのかと思えば全く逆で、自転車で日本一周の旅をしていた時にも日記を綴るウェブサイトも自作していたし、就農して一年目の時からすでに農園のウェブサイトを作り、お客さんが有機野菜をネットで注文できるようにしていたくらい、松本さんからすれば差別化のためには当たり前のことでした。

自分は目立ちたがり屋なだけだと思うと話した松本さんの言葉には「自分の野菜セットを誰に届けているのか」という経営において考えるべき当たり前のことを実践している確固たる自信が見えていた気がします。

「自分の畑は他の先輩農家さんに誇れるほど綺麗なものじゃない」と松本さんは苦笑いを浮かべます。

ですが先述の通り、自分で作って自分で配達もしているので顧客の顔は全て把握しているし、野菜の大きさが不揃いだとしても自身の口で顧客に伝えることが可能です。オススメの調理方法なども併せて紹介することで顧客との距離感がグッと縮まりリピートに繋がりやすいのです。

情報を発信し、消費者が受け取ることで徐々に心理的な距離が近くなり、コミュニケーションが取りやすくなるのは昨今のインターネットやスマートフォンの普及を見ても明らかです。松本さんも手段は多岐に渡り、SNS(ソーシャルネットワークサービス)はもちろんのこと、自社ウェブサイト、農業Youtuberとしても活躍している姿を筆者もよくウェブ上で見かける。今回インタビューさせてもらう企画を持ちかけたのも私が日々松本さんの姿をオンライン上で見ていたからコミュニケーションを始めるハードルが低く、まさに心理的に近い距離に居たからかもしれない。

「自分が届けるターゲットは誰なのか。まずはそこからだと思います。」

顧客との距離のデザインを体現している松本さんの一言は力強い。
農林水産省もYoutubeチャンネル「BUZZMAFF」を開設したこともあり、今後ますます農業関係者や消費者が動画を通して農業を見る機会は増えていくだろう。周りが使い始めたその頃には、次の顧客チャネルを模索し行動に移っている松本さんの姿が想像できた。



----------最後までお読み頂きありがとうございました🙌----------



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