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映画探検録

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受刑者の「彼ら」と私の間に境界はあるのか?(映画『プリズン・サークル』鑑賞録)

受刑者の「彼ら」と私の間に境界はあるのか?(映画『プリズン・サークル』鑑賞録)

「こちら側」と「あちら側」のどこに境目があるのだろう?

日本の刑務所に初めてカメラを入れて撮影されたドキュメンタリー映画『プリズン・サークル』を観終えたときに、一番強く湧いていた感情だった。

同作は、受刑者同士の対話をベースに犯罪の原因を探り、更生を促す「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」というプログラムを日本で唯一導入している、官民協働の新しい刑務所「島根あさひ

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『それでも僕は帰る』を支えてくださった皆様へ バセットの訃報を受けて...

『それでも僕は帰る』を支えてくださった皆様へ バセットの訃報を受けて...

2015年8月1日に日本公開した、ユナイテッドピープル配給『それでも僕は帰る 〜シリア 若者たちが求め続けたふるさと〜』主人公のバセットが、亡くなったと、昨日、同作監督のSNS投稿と、いくつかの海外メディアの報道で知りました。

正直、何をここで述べるべきなのか、分からないまま、それでも伝えなければならない何かが心に渦巻いて、パソコンに向かっています。

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("はじめまして"な方は、映画の概要

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ココロ、オレル?ココロ、オドル? (映画『ココロ、オドル』鑑賞録)

ココロ、オレル?ココロ、オドル? (映画『ココロ、オドル』鑑賞録)

「"ココロが折れる"という表現は、ここ10年くらいで生まれて、急速に使われるようになった言葉なんですよ」

先日、あるイベントのゲストに教えてもらって、すごくびっくりした。「昔からある慣用句」だと思い込んでいたから...。(今もまだ辞書には載っていない表現らしい)

私も随所で使っている気がするこの表現の、正反対『ココロ、オドル』映画を、東京公開に先立って先日試写させてもらってきた。

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舞台

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"関心"の手からこぼれ落ちてきた悲しみの破片 (映画『セメントの記憶』鑑賞録)

"関心"の手からこぼれ落ちてきた悲しみの破片 (映画『セメントの記憶』鑑賞録)

シリアを訪れた2011年3月から、まもなく8年の歳月が経とうとしている。シリアに思いを寄せ、微力ながらも、シリアについて知ってもらったり、関心をもってもらえるようにと活動しながら、心の底で小さくずっと抱えてきた思い...。

悲しみを比較することはできるのか。

日本でもシリアにまつわるニュースは多少なりとも報道がされているなかで、フォーカスがあたっているのは、戦禍のなかにいる人たち、命からがら国

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民族という「血」を背負うこと (映画『サーミの血』鑑賞録)

民族という「血」を背負うこと (映画『サーミの血』鑑賞録)

サーミ。

スウェーデンの原住民族を指すこの名前を知ったのは、まだ1ヶ月ちょっと前のこと。

世界各地の雪を見つめ続けている写真家、遠藤励さんとお会いした時に、サーミの長老の話を録音をしたものを聴かせてくれた。

傷を治したり、人の未来を予測したりできるという長老が「(特別な能力というより)僕らは人よりもよく観察しているんだ」と話していたのがとても印象的だった。

自然をずっと見つめ続け、自然と共

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