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行動変容デザインとはなにか ~ 『行動を変えるデザイン』を読む

※この記事は「『行動を変えるデザイン』を読む」マガジンの一部です。

 こんにちは。『行動を変えるデザイン』翻訳チームの相島です。初回は『行動を変えるデザイン』で紹介されている「行動変容デザイン」について自分なりのことばで紹介し、同時になぜこれを書いているのかもお伝えしたいと思います。

行動変容とデザイン

行動を変えたい。誰でもこう思ったことがあるはずです。不健康になりたいと思っている人はいないけれど、ついついソファーの上でポテトチップスを食べてしまう。お金を増やしたいと思うけれど、金利のほとんど無い口座に預けっぱなし。早く起きたらもっといろんなことができるのに。行動を変えたい、という思いは、あちこちに溢れています。

ですが、行動を変えることを手伝うプロダクト、と言われた時に違和感を覚える人もいるのではないでしょうか。プロダクトづくりに携わる人は、ユーザーはやりたいことが明確で、そのやりたいことができるようにするのがプロダクトの役割だと思いがちです。つまり、プロダクトが行動を変えてしまったら、それはユーザーがやりたいことではなく、プロダクトがさせたいことではないかと。

この混乱は、わたしたちが「行動を取る」ための心の働きには2種類あることに起因しています。「ついつい」「よくよく」の行動です。

「ついつい」と「よくよく」の行動

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「よくよく」の行動は、なぜどのように何をしたかを明晰に話せる行動です。なぜならあなたはそれを「よくよく」考えて行うから。しかし「ついつい」の行動は、このようにはいきません。わたしたちは「ついつい」、「ついつい」行動していることを忘れてしまい、それを「よくよく」行動したかのように思い込んでしまっています。ユーザーの行動についてもそうですし、自分自身の行動についても、わたしたちは思い込んでいるのです。

「よくよく」行動するのは、結構大変です。いろいろ考えないといけません。ほとんどの行動は、そこまで「よくよく」考えられていません。でも「ついつい」する行動は楽です。つまり、行動を変えるのを手伝うということは、あたかも「よくよく」とる行動のように、その人の将来の視点に立って、「ついつい」行動できるようにするということです。

「よくよく」の行動を「ついつい」できるように。「ついつい」行動をしてみたら、「よくよく」行動したのと同じ結果になるように。ひとまず、「よくよく」行動できるように。

これらが行動変容デザインが狙うところでもあります。

では、健康になりたいのに、ポテトチップスを食べていた人は、よくよく考えてみると、どのような行動をとるのがよいのでしょうか。

そしてどうすれば、その行動を、「ついつい」できるようになるのでしょうか。そして、プロダクトやサービスは、どのように行動を支援できるのでしょうか。あなたはどんな行動を変えたいのでしょうか。もしあなたがこれらの問いに答えたいと思ったなら、『行動を変えるデザイン』はきっとあなたの役に立つはずです。

「ついつい」本書を読むために

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自画自賛ですが、とてもよいタイトルの本だと思います(原題は、”Designing for Behavior Change”。ほぼ直訳です)。自分ができなかったあれもこれもが、この本を読めばできるようになりそうな、そんな期待を抱かせます。緊急事態宣言下、自宅で過ごす時間をきっかけに、当たり前だったことを見つめ直した人も多いでしょう。こうありたい、こうしたい。生活も、仕事も、人間関係も、行動が基本です。その行動を、デザインという魔法で、思いのままに変えられる。そんな期待を抱かせます。

しかし、興味を持ってくださった方の期待を打ち砕くことを告げねばなりません。この本は、実は464ページもあります。オライリーという、技術系に強い出版社からでている本でもあります。原著者は行動社会科学の研究者です。行動経済学、心理学、政治学、統計、インタラクションデザインまで、幅広い分野に言及があります。そう、それなりに読み応えがある本なのです。

なのでわたしは、読もうと思ってくれた人が「ついつい」本書を読むことをやめてしまうことを恐れています。書店で手に取るものの、そっと棚に戻すのを恐れています。本書が持つ、体系的かつ実践的、普遍的で革新的な知恵を遠ざけてしまうのを恐れています。ですから、読む前、読んでいる途中、そして読み終わった後も、本書の成果を咀嚼できるための、副読コンテンツを用意し、読書体験に伴走したい、と考えています。もし、かなうなら「ついつい」本書を読みたくなる、そんなものにできれば、と思っています。

もしあなたの役に立つようでしたら、このnoteで『行動を変えるデザイン』や行動変容デザイン、関連する内容を発信していけたら、と思います。どうぞよろしくお願いします。

書籍紹介ページ:

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APPENDIX:「ついつい」と「よくよく」について、もっとよく知るために

本書の中では、直感の心理と熟慮の心理ということばで、説明されています。興味のある方は、第1章を参照してください(p.51)。この2つの心理は、心理学では二重過程理論とも呼ばれています。二重過程理論についてわかりやすく解説した書籍には、例えば、以下があります。


また、冒頭で軽く触れた、ユーザーの意思に介入するプロダクトの倫理については、p.34を参照してください。

なお、「ついつい」と「よくよく」は、筆者がここでの説明のためにあてた用語です。より学術的に正確な表現については、専門の用語を使うに勝るものはありません。さらにわかりやすく的確な表現がありましたらご指摘ください!それでは!


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