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ハナロングロングゾウは詩集が好きなのです。 『ポニイテイル』★28★

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ユニコーンの角がわずかに光を帯びた。

かつて少女たちが編んだ物語が、あどの口からよどみなくあふれ出す。

* * *

ハナロングロングゾウは安全な場所を好む大型動物です。人間が多い地域では、図書館に生息することが多いです。図書館にいるハナロングロングゾウは、その長いハナをいかして、子どもたちが本を読むのを助けます。ハナロングロングゾウは世界各地からめずらしい本、おもしろい本、せつない本を集めてきては、毎日せっせと本だなに整理しておさめています。

このゾウが集めるのは物語ばかりではありません。生物図鑑や宇宙の本などについては、最新の研究書も(その多くはむずかしくて、子どもたちはわからないのですが、それでも)しっかりと用意しておきます。ハナロングロングゾウにおすすめの本を聞いてごらんなさい。きっとあなたに、今一番ぴったりの本を教えてくれるでしょう。

では、ハナロングロングゾウ自身は、いったいどのような本を好むのでしょうか。じつは、ハナロングロングゾウは詩集が好きなのです。それにはもちろん、理由があります。主な理由は2つ。

1つはハナロングロングゾウは、仕事中にこっそり鼻歌をうたうのが好きなのです。詩集にはたくさんの、覚えやすいことばがのっています。ハナロングロングゾウは、お気に入りの詩に、自分なりの節をつけて歌っているのです。こうすれば、毎日の生活がとても楽しくなるのです。

もう1つの理由はハナロングロングゾウの生い立ちに関係があります。ハナロングロングゾウは、ある詩人の空想から生まれました。その詩人は女性で、いつもふざけてばかりいるキノコ研究家の夫と、ふたりでひとつの愉快な空想をしていたものです。もちろんハナの長いゾウの話なんて、世界中の子どもやおとなが想像しています。でもその詩人たちは世界中の誰よりもしっかり、くっきり、きみどり色の長いハナをもつハナロングロングゾウのことを思い描きました。

詩人たちの間には産んだばかりの子どもがいました。でもとても悲しい理由があって、その子と別れなくてはなりませんでした。そう、国に『現実革命』が起きたのです。革命家は現実を推し進め、空想を駆使して人間をたぶらかす詩人は、まっさきに弾圧されました。キノコ研究家の夫は、もっと人の役に立つ研究をしろと迫られました。

研究家はそれをきっぱりとことわりました。すると長年せっせと調べてきたキノコ研究の成果は取り上げられ、目の前ですべて燃やされてしまいました。キノコ研究家はショックで目の前が真っ暗になりました。おそろしい革命はなおも進み、いつまでも現実に屈しないふたりの逮捕・処刑が決定した夜のことです。

詩人の妻は、西の夜空を見ながら、自分たちが考えたハナロングロングゾウがどこからかやってきて、高い灯台のてっぺんにこっそり隠した赤ちゃんを、その長いハナで助け出してくれる場面を空想しました。この子が大きくなるまでこまりませんように。森の奥に作っておいたキノコ型の家で、やさしいハナロングロングゾウにこっそり助けられながら、その子どもがすくすく育っていくようすを思い描きました。

こうして架空動物のハナロングロングゾウに命が宿りました。だから、ハナロングロングゾウは詩集が好きだし、研究書を大切にするし、子どものためにもてる力を尽くすのです。

* * *

「何、何、 すごっ! あどちゃん!! これって何年前? 考えたのずっと前だよ。 すごい。よく覚えてたね。めっちゃスラスラ! ていうか、あのときのよりずっと・・・超いい感じだった! ムズカシイ言葉も使えてんじゃん! やっぱユニコーンのパワーは……」

「そんなことよりさ」

「そんなことより?」

「もしかしてふうちゃん、ゲンジツカクメイの人?」

「ん?」

「役に立たないキノコの研究なんてやめなよ派?」

「え?」

「物語をムダだと思っちゃう、ゲンジツ的な人間?」

「ああ……そういう意味か。ていうか、なんかウザいよ、口調が」

「そうウザいよ。どっち? このポニイテイルってサイト、バカにするの?」

「別にバカにしてるわけじゃないよ。たださ、ちっとも効果ないのに、こんなとこで原稿募集とかしてて……めっちゃ効率悪いし、こんなの誰も見てないよっていう現実、ちっとも分かってないじゃん。ポニイたちの画像がかわいいからイラっとはしないけど、何ていうの、なんかね、残念なサイト」

「それが、ウチみたいってこと?」

「は? 何キレてんの? そうだよ。なんていうの、この、社会の空気をぜんぜん読めてない感? 残念さがメッチャ似てる」

「ちがうし似てない! それにレミ先生がウチに言ってた作家って、ふうちゃんの言ってる作家とちがうもん。ふうちゃんの言ってる作家って、ただの頭がデカイ病気の作家だよ。ウチはナノベでもいい。書きたい相手のこと思って……思いっきり好きなように書くもん!」

「バカ? プロの作家っていうのはね、好きなようにやってるように見えて――」

「バカは自分じゃん。いいよもう、ふうちゃんなんてさ……そうだよ、もう、一生この部屋で……」

子どもをたくされた司書、ハナロングロングゾウの怒り。

物語を守る妖精、レミ先生の怒り。

ずっとずっと前の、織姫になりたかった頃のリンリン自身の怒り。

まとめて思い浮かべて、ハムスタは最凶に怖い顔でバンビをにらんだ。

「ひとりで一生つぼんでなよ!」


ポニイテイル★29★へつづく

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ポニイのテイル ★28★ 崖っぷち

★noteを読んでいて驚いたのは、『詩』(俳句・短歌を含む)をアップしている方がたくさんいたこと。小説がマイナーなのは知っていましたが、『詩』がこんなにもポピュラーだとは知りませんでした。ハナロングロングゾウは喜ぶと思います。

★また音楽やラジオ、朗読などをアップされている方もいて楽しいです。私も塾の子と試しにラジオを録音してみましたが、編集に時間がかかってアップに至りません。

★noteにアップされている音楽や朗読を聴きながら作業しよう! そう思っても、画面の遷移に際して音が消えてしまうこともあったりして・・・そこでもう1台パソコンを用意して、1つは音再生用、もう1つはアウトプット用、スマホはテキストを読む用と分けています。

★かつては、文学賞の締め切りなど『他者が決めた締め切りがないと書きあげられない』場合がほとんどでした。しかし『ポニイテイル』(2018年版)のnote連載については、目標に定めたので予定通り進められています。読んでくださっている方・のぞいてくださっている方、スキまでつけてくださる方たちの気配は、とても励みになっています。ありがとうございます。

★とはいえ、2018年の目標である『7月7日に書籍化』は、期間を逆算すると、もうスケジュールは崖っぷちです。思いつく限りのことは、やりつくさないと・・・『ヴィンセント・海馬くん』は、これまで3篇アップしましたが、こちらも『ポニイテイル』書籍化プロジェクトの一環です。1つの作品を知ってもらうために、別の作品を書くというのも変な手法ですが・・・。note内で両作品を並べることで、ここはにぎやかになるものの、広がりはゆるやか。まだ見ぬエージェントに、作品が目に留まるように、そして届けたい層に作品が届くように作者自身が動かないと、目標を達成できないまま崖から落ちてしまう。ということで『海馬くん』については、こちらでの更新と並行して、『外に持って出てこよう』と思います。

チャーハンウィンタースポーツのエッセイを書くのも、今年の上半期はすべて『ポニイテイル』のため。今はもてる創造力と行動力を、この物語のために、すべてを注ぎます。

▲ハナショートショートゾウですね。

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