10/29。アルマカンと、ギターの話。
5:02起床。
天気は晴れ。
話を、しようと思う。僕の、つかの間の恋の話を。
昨日は、体調がすこぶる悪かった。気持ちが悪くて、立っていられなくて、仕事は何とかなったけど(きっと、倒れないように気を張っていたからだと思う。)、うちに帰ってくるなり、僕は布団の上に倒れこんだ。相当まいっていたんだな、と他人事のように思った。
2時間後には帰宅するパートナーに、痛み止めとかもろもろを買って来てもらうようにお願いし、僕はそれまで休んでいることにした。
布団にもぐりこむと、5分も経たない内に、アパートのどこかからギターの音が聴こえてきた。ここ最近は、この時間帯に、毎日聴こえてくる。今日は一段と、じゃんじゃか弾いている。
他にすることもなく、生き生きとしているギター(死にそうになっている僕とは、真逆だね。)に耳をかたむけていると、そのギターの主も、歌っていることに気付いた。
……女の子? 女の子の声だ。
てっきり、男の子だと思っていた。というのも、そこから聴こえてくると思っていた部屋には、男の子が住んでいるので。僕の、記憶違いかな。それとも、そことは違う、別の部屋から聴こえている? 音はあちこちで反響していて、よくわからない。
僕は、その声をもっと聴いていたくて、床……は冷たいので、布団に耳を押し当てた。(というのも、その声は、意識を集中しないとわからないほど、かすかなので。)
僕は女の子に、アルマカンと名前を付ける。(その名前に、特に意味は無い。)アルマカンは、どの部屋に住んでいて、どんな気持ちで歌っているんだろう? 誰のために、何のために歌っているんだろう? 僕は、想像する。
このギターは、僕が思っていた通り、男の子の部屋から聴こえているのかもしれない。アルマカンは、彼の恋人なのだ。
アルマカンはこの時間になると、窓を開けて、ギターを手に取る。
「ちゃんと、見ていてね」
アルマカンは、恋人に微笑みかける。毎日、寸分たがわぬことばを添えて。
そして、アルマカンは歌い出す。恋人に、もしくは、迫りくる夕闇に――。
「ただいま」
パートナーが、帰ってきた。荷物を置くやいないや、心配そうに僕の顔をのぞきこむ。買い物、ありがとう。僕は、パートナーの背中に腕を回す。気付けば、ギターの音は途絶えていた。
気付いたときにはそこにいて、気付いたときにはいなくなっている。アルマカンは、本当は存在しないのかもしれない。ギターを弾いている女の子はちゃんと存在するけれど、アルマカンは、僕の中にしか存在しないんだから。
また、会えるかな。
ええ、もちろんよ。
アルマカンは、いつでもそこで、微笑んでいる。
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