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妻とpatoさんとヌメリある話

「patoさんのスペースが面白かった」

夕食のとき妻がいった。私は聞きかえした。

「patoさんってあのpatoさん?」
「そう。Numeri(ヌメリ)のpatoさん」

私の中では『Numeri』というよりも、単に「ライターのpatoさん」という意味での質問だった。しかし妻の意図は十分伝わったし、回答は間違いではなかった。私は一連の流れを噛みしめながら、あんまり普通じゃない妻と結婚してよかったと思っていた。

読者を置いてけぼりにして申し訳ない。

さかのぼること20年くらい。ネットの世界ではテキストサイトと呼ばれる個人ブログサイトが大流行していた。そして群雄割拠のテキストサイトの中で、気勢を発していたサイトのひとつが『Numeri』だ。

更新こそ止まっているものの現在もサイトは残っている。

面白い人たちが自らのサイトで面白い文章を書いて披露する。そんないっけん内向的な諸行がはやっていた時代があったのだ。
私が主に見ていたのは『侍魂』というサイトだった。しかし『Numeri』は知っていたし、他にもそういうテキストサイトがあふれていて、世の中には才能のある人が沢山いるんだなぁと思っていたものだ。

(こちらもまだ残っていた『侍魂』。先行者とか懐かしくて死ぬ)

今、こうして文章を書いているのもあの当時テキストサイトに、文章の面白さを叩き込まれたせいかもしれない。

インターネットが家庭に浸透しだしたあの時代。世の中にSNSはまだ存在しておらず、たまに調べ物をしたり、エロいものを探すため以外にはあまり価値をみいだせていなかった時期があったように思う。そんなときに颯爽と登場したのが数多のテキストサイトたちだった。

記事のどれもが腹を抱えるほど面白い。
そのうえ、読んでも読んでも終わらないくらい膨大な数の記事がつみあげられていた。勉学が本分の学生とはいえ、あまった時間でテキストサイトを巡回してもバチはあたるまい。いや褒められた趣味ではない気がするし、普通に勉強しろよとは思うけれど。

とにかくその中にあったサイトのひとつが『Numeri』であり、その管理人こそが現在ではライターとして活躍しているpatoさんなのだ。patoさんと『Numeri』に関してはこの記事を読んでもらうのがわかりやすい。

とはいえ私が『Numeri』を読んでいたのはもう十数年も前の学生のころの話。その後、何年もの間、テキストサイトなどというものの存在は頭から消えさっていた。

しかしnoteを使うようになって私はある記事に出会う。
noteのいざこざのせいで現在はnoteからは居なくなってしまったけれど、中身はこちらで読むことができる。『’89 牧瀬里穂のJR東海クリスマスエクスプレスのCMが良すぎて書き殴ってしまった』というこの記事だ。

こんなにも長い記事で、牧瀬里穂のCMを15回も見せられるにもかかわらずまったく飽きない。ぐいぐい読ませられる。私はこの記事で心をわしづかみにされてしまった。そしてこれを書いた「patoさん」という方を大好きになってしまった。
そしてしばらくの間こそ気がつかなかったものの、これを書いた人物が『Numeri』の管理人のpatoさんであることに知るまでは遠くなかった。

その瞬間の私の衝撃たるや。

中学時代に熱中していたモノが、結局その人の根幹の部分になるという話を聞いたことがあるけれど、まさにそれを素で見せつけられた気分だった。ああ、これは根っこに染みついてもう死ぬまで取れない私のツボなのだと。ある意味絶望すらそこにあった。

とはいえ若干とまどいながらも、あの頃のヒーローたちがいまだに活躍していることに感動したし、やはり才能のある人は場所を選ばないものだなと感心したものだ。
いつしか最初に抱いた複雑な思いはどこかへ消えさり、その実力の前に完全に屈服し、名前を見るだけで記事の出来を楽しみにできる数少ない人物となって今にいたるのだ。

そこまではいい。ただの懐かしみ話である。

問題はその先だ。私がそんな再会をしていた数年後、ありがたいことにご縁にめぐまれ結婚した相手の口から、「patoさん」とか「Numeri」とかそんな言葉を聞けるとは誰が想像しただろうか。素で二度見した。いや二度聞きした。

もちろん当時、田舎ものの私のようなところまで伝わってきたのだから、実際のところ世間様の間でも『Numeri』というものはかなり流行っていたのだろう。だから驚くほどのことではないのかもしれない。
「MOON CHILDのESCAPEいいよね」くらいの感覚だろうか。いやさすがにMOON CHILDよりは『Numeri』の方が知名度低いのではないかと思うけれど。

もともと趣味の集まりで出会ったわけだし、近しい部分がかなりあるのは前からわかっていた。とはいえ出会ったきっかけは音楽フェスだし、かぶっている部分は音楽だったはず。

フタを開けてみたら、パソコンは自作だし、私が舌を巻くほどマンガを読んでいるし、平成ライダーと特撮とアニメにも詳しい。よくもまあこんないろいろ濃い女性がいたものだ。夫の顔が見てみたい……あ、私や! みたいなノリツッコミをしてしまう非常事態である。

じゃあそれがイヤなのかと問われればむしろ逆であり、こんな変わった妻でよかったなぁ。どんな確率をくぐりぬけたら食卓で『Numeri』の話になるの、幸せか。

――と、勝手に幸せをかみしめた11月の終わりの日だった。



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