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「14のインベカヲリ★」 一問一答 林叶からの14の質問

日本だけではなく、ヨーロッパ、アジアなどでも、その作品や写真集が手に取られているインベカヲリ★ 。本記事では、中国の信睿週報に掲載された “不是理想的猫”——专访日本摄影家斋部香★"(執筆:林叶)のインタビュー部分を日本語で特別再編し、一問一答(全14の問いと答え)としてお届けする。
なお、文中の写真は、すべて、©インベカヲリ★『理想の猫じゃない』からのものである。


前書き(林叶より)

2019年末、中国の写真雑誌『中国撮影』に、日本の写真研究者である小林美香さんが『日本写真の2010年代の展開』という文章を寄稿しました。
私はその文章の翻訳を担当し、小林美香さんのテキストを読む中で、インベカヲリ★さんの創作をはじめて知り、興味を持ちました。日本に滞在している友人に頼み、写真集『理想の猫じゃない』を購入しました。この写真集はとても興味深いものだった。中国の社会状況と日本の社会状況の差異、女性を被写体とするこの作家の思考に対する個人的な関心などから、彼女がどういう制作意図を持っているアーティストであり、制作を通してどのような試みをしている人物なのか、インタビューをしてみたいと思い、以下14の質問を投げかけ、答えてもらった。

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林叶 問1. 短大卒業後、編集プロダクションに勤務するも8ヶ月ほど退職され、それから写真の独学を始められたそうですが、最初に写真に触れたきっかけは何だったのでしょうか。写真を選び、自分の表現メディアとして創作していくのに、写真の何に惹かれたのでしょうか?


インベカヲリ★ 答1.  
 写真に触れたきっかけは、カメラの使い方を覚えたからという単純なものでした。それまで、文章や映像による表現は趣味で行ってきましたが、写真表現をやってみると、とても私に合っていました。文章は書いたことが全てなので、与える印象も一方向になりやすい。映像も情報量が多いので、見たままに伝わる。けれど写真は、見る人によって受ける印象がさまざまに変わる。人間の複雑さや曖昧さ、多面性を表現するとき、自由に想像を膨らませる余地を残せるのは、写真表現の良さだと思います。


林叶 
問2. 私が知る限り、インベさんの創作方法は、まずネットでモデルさんを探し、詳しいインタビューをしてから撮影に入られるということですが、なぜインタビューというプロセスが必要だと考えられていますか?
また、インタビューをされるとき、一般的にどういう方面に目を向けて質問をされるのでしょうか?その時に、一番難しいと思うことは何ですか?


インベカヲリ★ 
答2.   写真は表現手段であって、興味の対象は「人間」です。話を聞かなければ相手のことはわかりません。写真に撮られるということは、被写体にとっても表現行為です。自分を表現したいことと、「話したいことがある」というのはイコールだと私は思っています。なので話を聞けば、伝えたい想いが出てくる。これまでどんな人生を歩んできたか、どんな問題を抱えていて、どんな感情を抱き、どんな思考をするか。心の中を探っていくことで、はじめて相手の姿が見えてきます。服装や容姿ではなく、もっと心の奥深い自我。その人がその人である理由。それを知ることで、私はインスピレーションを得られ、写真のイメージを膨らますことができるのです。
インタビューの際に、私は相手の話を否定することはありません。その人の存在をそのまま受け止めて、ただ話を聞く。アドバイスや人生相談などとは違います。
難しいのは、本心を話したがらない人です。世間や親の期待に応えるため、自分を偽って生きているが、そのことに自覚がない。そういう人は、どれだけ話を聞いても「彼女自身」が見えてきません。

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林叶 
問3.   写真集の被写体はすべて女性を対象とされていますが、それはどうしてでしょうか?男性を同じような撮り方で撮られたことはありますか? 

インベカヲリ★ 答3.    初対面で、彼女たちは友達にも話さないような深い話をしてくれます。他人だから話せるのだと思います。自分の弱みや、醜さ、劣等感など、生々しい感情を言葉にできるのは女性の特徴だと思います。女性は話すことで自分を振り返り、答えを見つけ、生き延びているように思います。女性は素直に自分を見せてくれるので、私もイメージがどんどん膨らみます。男性は恰好つけたい生き物なので、自分が見せたい部分を見せようとする傾向があります。面白い話、きれいにオチのつく話をしたがります。そこには生々しい感情は見えてきません。写真をはじめた当初は、男性も撮っていましたが、私の表現したいものは女性を被写体にするほうが相性が良いとすぐに気づきました。




林叶 
問4. 作品としてポートレート以外の写真を撮られたことはありますか?ポートレートという表現は、なにか特別な意味、あるいは特殊性を持っていますか?


インベカヲリ★ 答4.
  人間を撮る、というのは、他のものとは大きく違うと思います。人間は感情が複雑で、撮影者である私と、相互に揺れ動き反応しあうからです。作品は、ポートレートしか撮っていません。

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林叶 問5. インベさんの作品を見ていますと、どうしてもフェミニズムとジェンダーのことが思われますが、過去のインタビューでは、自分はその視点で自分の作品を主張したくないとも仰っています。その理由、あるいはそれに関するお考えをお聞かせいただけますか?

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