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鹿狩りフラミニヤ―創作

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自然発生的に生まれた掌編や散文詩ともつかない「創作」寄りのもの、およびお題をきめて書いた習作をこのマガジンで販売しています。不定期的に更新され、原稿用紙で二百枚程度になったらひと… もっと読む
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#純文学

プラネッツ 二、惑星

プラネッツ 二、惑星

   二、惑星

 マーヤが「きゃー!」という悲鳴をあげたこと、救急車のサイレンに一瞬だけ意識が戻りそうになったことを覚えている。その後己れは様々な医療装置による百種類もの検査にかけられていたらしく、夢のなかでも聞き慣れない音がバリエーション豊かに飛び交っていた。
 己れは長い間魘されていた。
 己れは百年戦争の夢を見ていた。
 だが夢といっても、当時己れはもちろん各地の戦場に赴き観戦していた者な

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プラネッツ 一、アダムとエヴァ

プラネッツ 一、アダムとエヴァ

   一、アダムとエヴァ

 ストーキング行為も今回で半年めへと突入した。
 大丈夫。
 マーヤが過去に姦淫の罪を犯したか如何は分からない。だが己(お)れのなかで彼女の処女性は円環を象る。恋愛などどうせ皆作り話みたいなものさ、異國人(エトランジェ)。
 東京都庁最上階付近の展望ロビーに至ると、文庫本(マーヤが描いた藁かごに眠る仔猫のイラストが表紙)をポケットにしまって、己れは望遠鏡にいざり寄る。原

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玉岡あひるの荷物と荷づくり

玉岡あひるの荷物と荷づくり

 日本は平和なんさ。そう、恐らく根本的に、土とか水の段階からして平和なんさ――中学生までの期間をニューヨークの都市部で暮らしていた玉岡あひるにとって、それは日比谷公園の鳩をみながら、山の手の満員列車でスマホケースを破損させた女性の悲鳴を聴きながら、神田川をみながら、つねづね確認させられている揺らぐことなき胸懐で、そしてそのものの見方や感じ方が彼女の態度のはしばしにあらわれると、それはクラスメイトた

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令和の御代のはじまりと私――掌編にかえて

令和の御代のはじまりと私――掌編にかえて

 沸々として湧き出るものが、溢れて零れる時を私はずっと待ち受けていた。
 もうだれとも逢いたくない、人と出会って話をしていると私は彼らの言葉に声に、私の懐中から取り出した細やかな工具を用いだし、醜い部分を裏返しにさせて露呈させ、私はそれ以外の従来の工具の使い道を見失っている始末だった――なにを言っているの? 慥かに君には僕が何を言っているのか分からないかも知れない。けれどももう本当に見納め時だとお

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