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彼女が欲しがる1個のコップ

「コップが欲しいの」彼女が言った。

彼はコップを買ってきた。

「こんな色のじゃなくて、ピンクの」彼女が言った。

彼はピンクのコップを買い直してきた。

「もっと可愛いピンクで」彼女が言った。

彼はもっと可愛いと思えるピンクのコップを買い直してきた。

「こんな形のじゃなくて、もっと華奢な」彼女が言った。

彼は華奢だと思えるコップを買い直してきた。

「もう少し上品な感じの」彼女が言った。

彼は少し高級なお店に言って相談して買い直した。

「こんな高いのじゃなくていい」彼女が言った。

「じゃあ、具体的に描いて教えてよ」とうとう彼が頼んだ。

彼女は嬉しそうにペンを持ち、欲しいコップの絵を描いた。

詳しく描いた。

夢を込めて描いた。

期待を詰め込んで描いた。

(優しい彼なら、きっと似たものを探し出して買ってきてくれるわ)

輝く笑顔を浮かべ、完成した絵を彼に渡した。


彼は絶望した。

(こんなものこの世にあるわけがない)


彼はその絵に何かを書き込むと

彼女の部屋を去って、二度と戻らなかった。

テーブルに置き去りにされた絵にはこう書かれていた。


「おめでとう!もっと素敵な彼を見つけるチャンスをプレゼントします」


愛にも限度がある。

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