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『遺書』 47 困窮者を待ち構える業者――

今日は体調が悪く、頭痛と吐き気で寝込んでいたので、あまり書けない。昨日、あれやこれやとやっていたら、こうなった。身体が悪くなっていることをひどく実感する。



[前回からの続き]

元勤務先ブラック企業からは自動的に“退職”になったと通知された。会社の規則とか手元に持っているわけがなかったが、営業社員なんかは成績不達成で自動“退職”にしていることを知っていたから、いまさら疑問に思うようなことではなかった。
気に食わない役職員(役員も含めて!)を追い出せるようになっている、こういうところまで含めて、生粋のブラック企業。
過密労働で労災級だと思っているけれど、それどころか反対に“精算金”までむしりとろうというのだから徹底している。きっと、デスクに置いていた私が買った業務用の私物まで、“パクった”に違いなかった。

他方の父親のほうがはるかに、ずっと、問題が深い。
いままでいかにこの男が危険であるかということを、私の幼少期のことから含めてずっと書いてきたけれど、それでもこれを読んでいる人は疑問に思っているかもしれない。
けれど、これから書いていく事態の展開をみていったら、いま私がこれほどまでにこの父親に怯えているのか、いかに危険なのか、たぶん、だけれど、分かることになると思う。

それでこの毒親――どころでは済まないのだけれど――のことと同時進行で前後して、私の引っ越し先、つまり避難先さがし。

当時の"住所"(実際には、住めなくなっている)の家賃は、郊外の物件で、月10万円をはるかに下回っていて、いくら私の収入が以前の半分未満になっていたとは言っても、ギリギリ払える値段だった。
けれど、この物件を借りるのには父親が絡んでいる。父親がそろそろ追い出しに来るのは、目に見えていた。
家賃が払えるのに……。

そんなだったから、避難先さがし。
当然だけれど、父親が人殺しでそこから逃げてます、なんてことは誰にも話せない。他人には言えないし、他人を命の危険に巻き込むわけにはいかない。
ごく普通のルートで賃貸物件をさがす。

やっぱり、賃料をずっと低く抑えた小さな物件のほうがいい。そして、東京都心よりも遠く離れたところがいい。
インターネット上で探して、都内の不動産仲介業者に行き当たった。いわゆる"空中店舗"(ビルの2階以上に店がある)"客付け"専門の業者。
(貸主の物件を管理して貸しに出すのを"元付け"といい、借りるのを希望している客に貸しに出ている物件を探して"元付け"に会わせるのを"客付け"という。)

その業者の店に行って、気になっている物件いくつかについて話をした。

気になる1つ目の物件は、「事故物件だ」と言った。退去するときに高額のお金を請求する貸主で、そのショックがもとかなんかで「ウッ」となって借主が心疾患で倒れて死んだ、と言う。
うさんくさい話……。つくり話だろう。
(要はこれは、いわゆる"おとり物件"。本当は貸せない物件なのに、それを掲載して客を釣る。)

それでほかの物件をいくつか紹介されたのだけれど……。

そこで問題がある。私には、連帯保証人になってくれる人がいない。
すると保証会社をつけて借りられる物件ということになる。
けれど私は、起業しているとはいっても、零細で、収入は不安定。審査に通るか分からない、そう言われた。

第一希望にしたのは、神奈川県内の、しかも川崎横浜からも離れた県央にある、自動車工場の期間工が借りるような、ごくごく小さな建物の、小さな一室――。
保証会社の審査に通るか分からないけれど、とりあえず出してみよう、ということになった。

結果が出るまで数日。
現地まで走って行ってみた。
ほのかな希望――。どうやって荷物を運んで引っ越すか。引っ越し先での生活を想像したりもしてみた。妄想。

後日。
やっぱり通りませんでした。と電話で言われた。
落胆。やっぱりだったけれど、それでも、突き落とされた気分……。
別の物件にあたりましょう。

再びその店で、仲良くしている、貸してくれそうな(元付けの管理)不動産業者を知っているので紹介できます、と言われた。

うさんくさい客付け業者だとは思っていたけれど、担当者の人当たりはいい。
背に腹はかえられない、っていう表現は古くさいけれど、私は命懸けで引っ越し先をさがしている。そんなだから。
この話に、乗った――。

[次回に続く]