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【短編】 戦争と幼馴染と終わらない旅

 ペーターには住む家がありません。
 戦争で村がすべて焼かれてしまったからです。
 お父さんとお母さん、そして妹のビアンカも炎に焼かれて死にました。
 ペーターは、大きな空き樽の中でいつものように昼寝をしていたから助かったのです。
 妹のビアンカも一緒に樽へ入ろうとしたのですが、何となく鬱陶しくて妹を追い出してしまったことを、ペーターはひどく後悔しました。
「ようペーター、お前も生きていたか」
 涙をぬぐいながら振り向くと、幼馴染のオスカーと、クリスティーナが立っています。
「一通り見てきたが、この村で生き残っているのは俺たちだけだ」
 オスカーはそう言って、ペーターの肩に手を置きました。
「クリスティーナは、黒焦げになった鍋を持ってうろうろしていたんだけど、俺が見つけて連れてきた」
 ペーターは、クリスティーナに密かな好意を寄せており、彼女の金色の長い抜け毛をお守り袋の中に入れて大切に持っていました。
 しかしペーターの目の前にいるクリスティーナの顔は、別人のように醜く歪んでいました。
 
 ペーターと、オスカー、クリスティーナの三人は、焼け野原になった村に別れを告げ、旅へ出ることにしました。
 周囲の村は、ペーターたちの村と同じで酷い状況でしたが、もう少し先へ行くと戦争の被害がない村もありました。
「もう少ししたらこの村も戦争になるかもしれないけど、あたしたちにはどうにもならないからね……。そのときは、逃げるか死ぬかしかないさ」
 村人の話によると、首都の近くが一番安全らしいので、三人は五十里ほど先にある首都を目指すことにしました。
 クリスティーナはずっと黒焦げの鍋を持ったままで決して手放そうとしませんし、オスカーはどこかで立派な剣を拾ってからまるで勇者気取りです。
 ペーターは、首都へ着くまでにクリスティーナに自分の気持ちを伝えたいと思っていましたが、別人のように顔が醜く歪んだ彼女のことを、今でも好きなのか自信が持てませんでした。
 
 しかしある月の夜、オスカーとクリスティーナが暗がりで接吻している場面を、ペーターは見てしまったのです。
 
 ペーターは何も言わずに二人と別れ、一人で国々を放浪する旅に出ました。
 
 旅先で、妹のビアンカに似た女性を見つけて結婚し、子どもを作りました。
 一生ここで暮らそうとペーターは思っていましたが、新しい戦争が始まって、再び家族を失いました。
「ようペーター、お前も年取ったな」

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