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【短編】 木星トロヤ群 第五ラグランジュ小学校へようこそ

 小惑星に着陸すると、そこには小学校があった。
『木星トロヤ群 第五ラグランジュ小学校へようこそ』という大きな看板。
 校舎の一階を全て確認したが、人の気配がない。
 じゃあ二階はどうだろうと階段を上ったら、廊下が壁で行き止まりになっていて『ここで宇宙服を脱いで下さい』と書かれたドアがあった。
 ドアを開けると真っ白な狭い部屋があり、中に入ると「ドアを閉めて下さい、ドアを閉めて下さい」というアナウンスがしつこく流れるのでドアを閉めた。
「現在、空気充填中、空気充填中。絶対にドアを開けないで下さい。空気充填中」
 ブワーという空気の音が止むと、今度は壁から光線が出て身体全体をスキャンされた。
「有害なウイルス等は検出されませんでした。入室を許可します、許可します。カップ麺も三分で出来上がりました。カップ麺も三分で」
 部屋の奥の扉がクーと開くと、その向こうに少女が現れて、湯気の立つカップ麺の器を私に手渡した。
「小学校へようこそ。本当に人間が来るなんて」
「君は、少女型のアンドロイドかい?」
「いいえ、人間の十二歳の女の子です」
「え、本当に? 人間に会うのは二十年ぶりだし、子どもなんて滅多にいないから」
「あたしも、家族以外の人間に会うのは初めてです。みんな死んでしまったから、この小学校にいるのは私だけで、このカップ麺も最後の一つなのです」
「ああ、そういうことなら君に食べる権利があるな。早く食べないと、麺が伸びるよ」
「くんくん、わりといい匂い。ずるずる……、うわっ、なんか変な味」
 カップ麺の賞味期限は、二十年も前に切れていたようだ。
 
「ところで、君はこれからどうやって生きていくつもり?」
「冷凍食料が五百年分あるから、何とかなります」
「そっか」
 私は、土産にレトルト食品を段ボール一杯渡したあと小惑星から離脱した。
 
 あれから二十年後、再び小惑星を訪れると私は目を疑った。
 小学校の校庭では、何人もの子どもがかけっこをして遊んでいる。
「今は、宇宙人の子どもに勉強を教える先生になったのです。二十年前にあなたと出会ったときとても刺激を受けて、この宇宙にはまだ出会ったことのない人が沢山いることを想像するようになりました」
 かつて少女だった女性は、私の手を握った。
「よかったら、あなたもこの小学校で学んでみませんか?」
 私は、生まれてから宇宙の旅ばかりで、学校に行ったことがなかったからそれも悪くないなと思った。

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