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これから地域おこし協力隊になる人へ③ ~こんなことに困ったら~

2回にわたって地域おこし協力隊としての活動を振り返り、数々のしくじりと、それでも何かを町にも自分にも残せたのではないかと、いうことを掘り返してみた。

このnoteでは筆者が岐阜県恵那市に移住して11年の農村暮らしから見えた「田舎暮らしってなんだろう」を主なテーマにお届けしてます(所要時間4分)。


協力隊へのアドバイスについて

協力隊活動の核心=「泥臭いコミュニケーション」

こんなオレでも「協力隊OB」という肩書ゆえに、現役の方から相談をいただく機会もある。
しかしながら現役の協力隊さんに「こうすればうまくいく」なんてアドバイスは極力してこなかった。

そもそも協力隊も地域も千差万別であり、その関係は一つとして同じものはない。だからこそ、「ああすればこうなる」という法則は存在しないと考える。

そのうえで言うならば、基本的には、地域の中で泥臭くコミュニケーションをとって、自分と地域の関係を作っていくしかないと思っている。
オレの知る限り、地域の中でしっかり役割を担って活動できた協力隊は、みなそうしていたし、彼ら自身もそう語っている。これは協力隊活動の一つの核心であろう。

協力隊全体でみると以前よりも制度やサポート体制が充実し、能力の高い人が多く参加するようになったという印象があるのだが、協力隊サポートに関わる人から聞くと、協力隊の悩みの内容は12年前とそう変わらないらしい。これはその核心が変わらないからだと想像している。

協力隊側から相談内容を聞くと、しばし地域や自治体への批判に傾く。本当にひどいなと思うこともあるが、まあその考えだったらうまくはいかないよね、という協力隊の言動も少なくない。

どのようにバランスをとるか

協力隊当時は気がつかなかったが、その後10年地域で暮らして、自分が「地域の一員」という感覚が濃くなってくると、こんな協力隊は応援したくないなぁと思える過去の自分の言動に気が付かされるのであった。

そういえるのは何も時間的なことだけでなく、自分の妻が地元の人で、今は妻の実家でお義母さんとも同居していることから、おそらく多くの隊員よりも地元の生の感覚に触れているからだ。彼女らだけでなく、彼女たちとのつながりから、多くの地域住民の「ヨソモノ向き」でない声も耳に入ってくる。

何も地域の言う通りにしろとか言うことではない。それであったら協力隊のいる意味はない。むしろ、地域の課題解決というミッションに真摯に向き合うからこそ、摩擦が生じることは避けられないだろう。

しかし、外と中のハザマにあって醸成されてきた「どのようにバランスをとるか」という視点は、地域の人達自身に自分たちでこの町を残すんだというアクションをしてもらいたいのであれば必要になるものだし、自分がこの町に暮らし続けたいという目標があれば、やはり欠かせないものだろう。

そのような視点に立って、以下にいくつかのテンプレ的な相談に対する、オレの考えを述べておく。今回は協力隊自身が抱える課題にフォーカスしたいので、その点ご了承いただきた。
雇用型・委託型などそれぞれのケースは千差万別なので、当てはまらないものもあるかと思うが、自分の考えと照らし合わせてみて、何かうまくいかない、と壁にぶち当たったときに少しでも思い出してほしいと思う。

何度でもいうが、正解はない、と思っている。

こんなことに困ったら

「事前研修もなく協力隊の受け入れ態勢が整っていなくて、住民にも理解が得られてないのでスムーズに活動がスタートできない。」
制度自体受け入れ側のカスタマイズに委ねられている反面、受け入れ側が完全に準備をして住民全員に目的が伝わって、どうぞどうぞ、というわけではないことは覚悟した方がいい。そこは普通の就職とは違う。状況が変わるのを待っててもやってこないので、ひたすら顔を合わせてコミュニケーションとって自分のことを知ってもらい、住民の人となりを知ることなど、やれることはある(しかるべきところに相談することも大事)。

どうしてもそのような状況は看過しがたいということであれば、採用面接などの際、事前研修の有無や内容、サポート体制の有無などを尋ねてみることで、自治体の受け入れに対する姿勢をある程度判断することができる。買い手市場の協力隊採用の中、導入を試みる自治体にとっても意識を変えるフィードバックになるかもしれない。

  • 「地域特産品を売り出したいが、スタッフさんたちが非効率で無駄が多い。東京で実績もあって合理的な提案をしてるのに聞いてくれない。言う通りにしたら絶対売れるのに。」
    都会のビジネス経験と地域の慣習がぶつかり合う典型的なケース。合理性や効率化に対する価値観は地域と都会とは違う。それは当たり前の話で、効率化や合理化は確かに重要だけど、地域の文化や価値観を無視してうまくいくと思えるか。「正しい正しくない」ではなく、地域の人達が非合理で非効率なことを「なぜ守ってきたか」を考えてみることをお勧めする。

  • 「農業体験のコーディネートで収益化を思いついて企画したが、農家さんたちがいい顔しない。」
    協力隊にとっては、そこら中にある畑に過ぎないかもしれないが、農家さんたちにとっては、生活や文化と密接に結びついている。自分の畑は単なる仕事場ではなく、大切な家であり、人生そのもの。それを理解せずに、「有効活用してあげようという提案なのに何で使わせてくれないんだ」と思いがちだが、地域のリソースは尊重して大切に扱ってほしい(森林や空き家なども同様)。

  • 「イベント企画が却下された。地域がサポートしてくれないせいで、活動が思うように進められない。」
    地域のサポートは協力隊の当然の権利ではない。日ごろから関係者とコミュニケーションをとっていれば実現のアドバイスをもらえるかもしれない。特に小さな自治体では、行政職員も一人の住民という面が強いので、お互いの信頼関係が大事。周りの地域の人に相談してみれば一緒に話をしてくれるかもしれないし、他の手立てが見つかるかもしれない。

  • 「地域活性・課題解決したいというから、自分がいるはずなのに、結局地元の人たちだけでいろいろが決まってしまう。いる意味がない」
    自分が主人公になりたくて協力隊になったのか自分に問うてみるとよい。なぜ自分の活動や意見が反映されないのか、相手に問題を見つけるのは簡単だが、自分を顧みることも忘れてほしくない。そのうえで、まずは自分のできる領域で地域の人たちと一緒に小さな成果を積むことで、あなたの発言は重要だと聞いてくれるようになるだろう。

  • 「協力隊なのに、活動以外の地域行事とかに出ることを求められる。自分には関係ないし、自分の時間がなくなる。」
    人のつながりが密なコミュニティでは、”目に見える”貢献が重視される傾向がある。伝統行事の準備に出る、町内の草刈り作業に出る、防災訓練に参加する、酒を酌み交わす、など。逆に言えば、目に見えていれば、協力隊としての活動にも関心を持って協力を得られる可能性が高くなる。どのバランスが最適かは地域性にもよるし、自分で試しながら築いていくしかない。

  • 「村中自分のことを知ってて怖い。噂されてる気がする。嫌われてる、避けられてる気がする。」
    初めて会う人が自分の家族構成まで知っていることはよくあるが、田舎のセキュリティ現象と思って受け入れるしかない。自分の存在は自分が思っている以上に地域にインパクトを与えていることを自覚すべし。誰もが自分を歓迎しているわけではない。特に毎日をいつも通りに穏やかに暮らすことを望む人にとっては貴方が恐怖であることを忘れてはいけない。
    とりあえず地域の行事に出て一緒に活動して、自分も一人の住人であることを示すべし。

  • 「○○村の空き家活用がオシャレでクリエイティブでソーシャルグッドでこれやりたいと提案したんだけど、『じゃあみんなで○○村移住しようや』とキレられた。」
    協力隊の成功事例は参考にはなるが、地域で全く違う個性があり住民のニーズも異なる。憧れるのは良いが自分の目の前にいるのは、そこに住む一人一人の人間であり、活動するのは貴方自身である。地域に優劣はない。
    前々回にも書いたが、これはオレのしくじりそのものである。

あとは、家に呼び鈴鳴らさずに近所の人が入ってくる問題とか、玄関に誰からかわからない大量のキュウリのおすわけがかかっている問題とか、生活上のこともいろいろあるが…

協力隊の心得は各所で載っているので、そちらも参考にされたい。

まあわかっちゃいるけどやらかすわけで、オレは協力隊の任期後も同じような逡巡を繰り返している。そう簡単に意識を変えられるものでもないから困るのだが、そんなときは客観的に自分がどのような行動をしているのか、自分が住民になったつもりで、よそからやってきたなんかよくわからない協力隊って意識高い系のヤツが「この地域を変えたいです!」なんて言っている姿がどう見えるか、そんな視点を持つと問題の切り口が見えるかもしれない。

何があっても一生の経験です

長々と書いてきたが、どれだけ準備しても、どれだけ知識や経験があっても、どれだけいい人でも、どこかでつまずき、こんなはずでは、ということは起こる。

きっと、今協力隊を目指す皆さんは優秀な方が多いと思うし、地域の課題解決の役に立ちたい、という熱い想いで、勇気をもって飛び込んできただけに、自分は一生懸命やってるのにうまくいかない原因は制度の不備や住民の理解不足のせいだと思えて、落胆も半端ないと思う。実際そうやって任期途中に離れていったり、3年間をただ耐え忍ぶように過ごした人も数多く知っている。
もちろん一生に関わる決断をもってやってきた隊員をもう少し尊重してあげてほしい、と思う地域側の対応がないわけでない。

しかし、自分の思いは大切にしながら、3年かけて地域の人に合わせて軌道修正していくのもまた協力隊。思惑通り行くことなどあるまい。
地域と合わないとなったとき、離れる決断も大事になことだろう。それでも3年を完了したときに、何かお互いに残るものがあるかもしれない。それはかかわった本人と地域にしかわからない。
どちらにしてもひとたび協力隊にかかわれば、あなたにも地域の人たちにも、一生にわたってお互いの生き方に内から外から作用していく。それだけは間違いない。

協力隊にチャレンジするすべての方の健闘をお祈りしています。

岩村はいつも語り合っていた

以下に協力隊関係で書いたものがあるので、よかったらご一読を。

協力隊当時のブログもどうぞ。テンション高く絵文字の多用が痛々しいが、晒してみる。読み返すと、我ながら面白い視点で書いているものもある。


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