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女生徒/太宰治

太宰治は女性一人称の作品がすごく良い、とどこかで見聞きした。
故に初めての太宰治は人間失格でも斜陽でもないこの短編集。
予想外にポップで、ほとんどの作品が書き出し一行目からなんか面白い。

あさ、眼をさますときの気持ちは、面白い。

女生徒

【女生徒】
女学生の一日を朝起きたところから描写しているだけ。
それなのに、これ私のこと?と思うくらい、思い出のどこかにある気がする。
夜に来た客人の相手をする母のいつもより少し高い笑い声とか、もてなす感じとかわずらわしい感じとか。
昔の自分の日記を見つけて読みふけってしまうような、そんな、恥ずかしさと懐かしさと、すっかり忘れていた出来事を他人のように読むような、不思議な余韻。

おわかれ致します。あなたは、嘘ばかりついていました。

きりぎりす

(へちまの棚を作ってほしいとあれほどお願いしても)あなたは、よし、よし、来年は、等とおっしゃるばかりで、とうとう今日まで、作っては下さいません。

きりぎりす

【きりぎりす】
『あなたには、まるで御定見が、ございません』
『きっと、悪い事が起る。起ればいい』
『あなたは、卑劣です』
『あなたは、気違いです』
『もう、あなた達の事は、私には、さっぱり判りません』
『いやな、お人だと思いました』
『くだらない』
『恥じて下さい』
これはもう生理的に無理、という域ですね。
修復は難しい。
ほぼ改行なし、ページが真っ黒になるほどの全文夫の悪口。
深読みすればいくらでも考察のしようがあるだろうが、とにかくこの丁寧な品のある口調での悪口がクセになる。
久しぶりに実家に帰って、母の父への愚痴をお茶菓子を食べながら聞かされたのを思い出す。
どっちの言い分が正しいのか、両方の話を聞かなければわからないのだが、そこまで首を突っ込みたくない面倒くささもあって、まあとりあえず元気にやってるようでよかったよ、とお茶を飲みながら相槌を打っていたものだ。

菊子さん。恥をかいちゃったわよ。ひどい恥をかきました。顔から火が出る、などの形容はなまぬるい。草原をころげ廻って、わぁっと叫びたい、と言っても未だ足りない。

【恥】
女子会で集まってこんなこと話す友達がいたら、ずっと爆笑しているだろう。

結論。
太宰治の女性一人称は信じられないくらい面白い。

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