人間失格/太宰治
生は悲劇という葉蔵、喜劇と言いきる堀木。
言葉遊びの二人の対比が、その後の人生の対比でもある。
葉蔵は不幸をいちいち丁寧に掬い上げるが、幸せは簡単に取りこぼす。
葉蔵が堀木の自宅を訪問した際、年老いた母が薄いおしるこでもてなし、恥ずかしがるでも虚勢を張るでもなく、ありがたいと感謝して食べる堀木。
これまでの都会派遊び人イメージとは違う、家の内と外を使い分けている堀木に葉蔵は裏切りを感じる。
同類ではなかった。
正しく真っ当に人間社会を生きている。
勝手に裏切られたり幻滅したりあきらめたり。
誰もなにも裏切っていない。
みな多かれ少なかれその中でバランスをとって社会を営んでいるだけなのに。
自分一人がこんなにも苦しんでいるのに、世の中の大半の人々はごく簡単に幸せに暮らしている。
当たり前の風景の中になぜ自分がいないのか。
『傲慢と善良』の一場面。
休日のショッピングモールによくある家族連れの風景。
安物のキャップを被ったずんぐりとした体型の父親。
髪をキレイにまとめた同級生にもいそうなごく普通の母親。
キンキン声をあげる子供。
こんな些細な幸せでいいといっているのに、高望みしてるわけではないのに、なぜあの風景の中に自分はいないのか。
傲慢が滲んでいる。
あいかわらず『傲慢と善良』のアンテナがビンビン立つ。
まわりの人の要求に全て応えてお道化に徹してきた葉蔵は、善良でもあった。
こちらはポップで楽しい太宰治。