砂の女/安部公房
蟻地獄に誘われ抜け出すことのできない砂。罠に足を踏み入れた男。逃したくない女。観察している村人。
口の中がざらつく。
ヤマザキマリ様が解説してくれた100分 de 名著。第3回までみて居ても立ってもいられなくなった。最終の第4回を共に迎えたい。
自由な生き方に憧れ管理社会に反発していた男が、いざ危機的状況に陥ったとき、社会に登録された自分の属性にすがりつく。
だがそれもここでは脅しにもならない。
自由を求めてやってきた村に捕らわれ、自由を取り戻したいと抗う男。
自由とは自分と反対側にあるのだろうか。
観念してこの家で一生砂を掻いて暮らすと、腹を括ったフリをし機会を伺う。安心した女が「お金を貯めてラジオと鏡を買いたい」と少し先の未来を語る。
ラジオは自分が大きな社会の一部であると自覚させるもの。鏡は己の存在を認識させるもの。どちらも他人(男)の存在が前提にある。
男は策を講じて逃げるが失敗し、連れ戻される。崩れ始めた砂のトンネルのような絶望。息をすることも苦しい。
数か月後、穴の中で《希望》を見つける。
異様に拡大された細部ばかりに囚われていたが、広角レンズをつけた眼で見渡せば世界の見え方がガラリと変わる。
年が明け春が来て、脱出の機会がふいに訪れた。縄梯子を登って崖の上に立った男は、逃げることも留まることも自分で選べる自由を実感する。
いつでもどこにでも行ける自由の切符を手にして、男は穴の中に戻った。
解放されることが自由ではない。
七年後、社会からある宣告を受ける。
第4回を拍手で閉じる。
深く深く砂に潜っていた私は、やっと呼吸が楽になる。