見出し画像

私の中のフィンランドランク。

かつて専門に学んだことを、選択した。先生には身バレしていた。

事の始まりは、コンサートの出演の話。別の先生から紹介されて特に気負わずに参加した。ジャンルはバロックだった。まさかフィンランドへ来てバロックを歌うのか、と自分が驚いた。かつて私はバロック音楽を専門にしたくて日本を後にしたからだ。

そして希望通りにバロックを専門とする学校を卒業し、在学中から仕事をした。ただ、それはもうずいぶん前のことになる。手っ取り早く言うと20世紀のことだ。数年仕事をしていたが、バロック業界の経済状況はいきなり悪くなり、ギャラを長期間待たされたこともあった。その後出産したら、健康状態と声がひどいことになり、とてもじゃないが、特にバロック歌いとしては歌えなくなっていた。バロックはやむを得ず「過去のモノ」にするしかなくなってしまったのだ。いずれにしても、ひとりで歌っておもしろいものではないので、特に歌うことがなくなった。同時進行で、教えることをきちんと身に着けようと国のディプロムの準備も始めた。・・・というのが前科だ。

音楽は続けているものの、昔から3年周期くらいで「もうこれは卒業」と、手を付けなくなるジャンルはあった。今思えばそれは、日本の受験や仕事の環境によるもので、「やっている余裕がない」「夢中になる余裕がない」ということだと思うのだけれど、きりをつけたり、ひと段落をつけたり、「あきらめなさい」と自分に言い聞かせ、コンマリしないと次へ進めない、というものでもあったのだ。

さてバロックの授業をとりたくなり、先生と電話で話をした。身バレしていて「経験あるのでしょう?ほかにどうしたらいいのかしら?」と聞かれたように思った。正直、学んだことはかなり昔の話で、演奏はできるとしても、あれこれ忘れている。

「かつてやったことであっても久しぶりだし」なんにせよ、

フィンランドでやるんだから最高です」

としか答えが出てこない。

「クラシックの歌の場合、なかなかほかの人と演奏する機会がない。ましてバンド演奏はできないので、その共同作業は期待」と、後付けで思った。フィンランド語で学びたい、ということもある。また、フィンランドにどのように古楽が知らされたのかにも興味がある。全然知らずにいたから。義務科目はいくつか免除にしてもらったが、今回は、免除の逆だ。

先生にはもうひとつ「楽器を弾きますか?」と尋ねられた。3パーセントほどうろたえながら、「ピアノを弾いていました」、「が」と言った。

「関節リウマチで手を痛めたので、バッハみたいな曲は弾けません。でも、3和音をならすことは可能です」

と半泣きで答えた。バロックはバスラインの上に和音を載せていく(通奏低音)だからそれでもかまわないそうだ。ほっとした。他の人のために弾く方だって、私はできるものならやりたい!!

今だに下手ながらピアノの難曲?をガンガン引いていた時代が懐かしい。そのことを思うとちょっと悔しくて泣きたくなる隙間の一瞬がある。今、動く手指があったなら、今、健康だったなら・・・ピアノ科へ入ることはできないレベルだけど、ごまかし方も身についたし、音楽性というか、人生とか、歴史とか他のことをたくさん吸収したから、今弾けたらすごく面白いだろうな・・・と、こればっかりは、コンマリできなくて、困ってしまうのである。

最近動画にインスタント弾き語りをアップした。顔は半分、しかし手は映っている。手首は曲がっていない。しかしこれも自分の一部である。すっぴんというのも自分の一部ではある。

https://www.youtube.com/watch?v=62hsGJK2AIs 


さて、一応講義への入門の許可はいただけたと思う。バロックの講義には、いろんな楽器の人が、いろんな興味で集まってくるらしい。来年から他の学生に会うのも楽しみだ。来年になれば、新校舎も使えて練習もできるようになるだろう。コロナのことはわからないが、それでも、練習場所は確保できるはずなのだ。今の希望は、これだ。

「元気に学校へ行って、友達に会いたいです」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?