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シリマーの秘密 8.来客 パウリーナ・テルヴォ原作 戸田昭子 訳


土曜日の12.45分、アンニーナがドアの前にいるのが、私の部屋の窓から見える。新しい真っ赤な上着を着ている。それになんということか!アンニーナはひとりでは来なかった。隣にかわいらしい女性が立っている。ドアベルが鳴る。
「シリ!」と母が叫ぶ。「ドアを開けに行って」
「お母さんが行って!」と私は言う。「アンニーナのお母さんも来てる」
おなかがきゅうっとなる。本当に準備ができているのか、ぜんぜんわからない。母がドアへと急ぐ。私はそっと自分の部屋のドアをあける。姿勢を正さなくてはならない。人間みたいでいなくては。私がそうしたいのだ。私はずっと孤独ではない!

アンニーナの母は、私の母とはずいぶん違う。ざっくり結んだポニーテールに、ショートパンツ。母は、それに比べるととがっている。私は母が恥ずかしいのだろうか?そんなことはない。

彼女たちは心よくハグしあった。
「モイ!アルヤです。」アンニーナの母が言う。
私の母は自己紹介し、私のことも紹介し、訪問に来てくれたことの礼を、先に言ってしまった。
私はみじめに感じる。私は他の人が私のことを話すのが、嫌いだ。
母は善意でやっているだけだ。
気持ちが混乱しているけれどな自分を助けようと思う。

 

「お部屋を見せてあげたら、シリ?」と母が聞く。
そしてアルヤに、コーヒーを飲むかと尋ねる。アルヤは一杯いただきます、と言う。物事は私が願うより、すいすいと進んでいく。コーヒーには不思議な魔法がある。見知らぬ人々を、最高の友達かのように、おしゃべりさせてしまうのだから。

それともこれは母の魔法だろうか。
母は、他の人を気分良くさせることができる。
薄気味悪い形式ばった儀式はともかく終わった。

私は部屋のドアを開ける。自分が自然のままでいられるように、と心底から願う。アンニーナが中へ入る。私はすべてききめ細かに整えておいた。これが私の部屋なの!何も失敗してはならない。照明はきちんとついている。私達ふたりの座る場所と、吟味して選んだ質問がある。もし話が続かなかったら、絵を描いてもいい。

アンニーナはターヴィをじっと見つめている。
「私も同じの持ってる」という。「というか、持っていた」

私は顔を赤らめる。
そうだ、もちろん。12歳なら、もうぬいぐるみなんてもたない

 

部屋にあるものすべてにアンニーナの目線が移動する。していく。最後に、机に近づいて、視線を落とした。だめ!!
「読まないで!」と私は何度も頼んだ。「お願い」
でもアンニーナは優しくない。彼女はデスクの近くの椅子に座り、サプライズであるはずのリストを声に出して読み始める。この状況を支配しなくてはならないのに、何もできない。できない。自分の境界線を守れない。たやすく、ふりまわされてしまう!

 

「お母さん!」私は叫んだ。
聞こえていない。台所へ走る。母はそこにもいない。
「お母さん!」ふたたび、大きく叫んだ。
応接間へ走った。そこに母たちはいた。アルヤと母が、私の子供の頃の写真を熱心に見ている。
「今度はどうしたの?」母は尋ねる。
「それは私の写真です!」と私は叫ぶ。「私の部屋は、私の部屋なんです!
  ちゃんと使い方を理解して!」

「アンニーナ!」アルヤが怒鳴る。
アルヤはソファから立ち上がる。ドアはあいている。アルヤは私の部屋に急ぐ。
「一回でいいからきちんとした女の子のようにふるまって?」

私は部屋のドアへ忍び足で行く。アンニーナは私のベッドに、手を胸に当てて座っている。まるで日曜学校にいる女の子のように。母が戸口に現れる。
「シリ、あなたも少しリラックスしたらどうなの?」
「私はそうしたいのです。あなたはそこに座って、私が許可するまで、何も触らないでください」と私は言う。「わかりますか?」
「わかりました」と、アンニーナはすすり泣く。
母は目線を落とした。アルヤは母の肩をたたいた。
「ほらお嬢さんたち、今度はもっとちゃんとして」アルヤが言う。
そしてドアを閉める。私たちは二人になる。
「オーケー」アンニーナは言う。「あなたが規則を決める」
「OK」と私は言う。
「目を閉じてください」と私は言う。
アンニーナは命令に従った。私は電気を消した。
「ここはシリマー」私は言う。「そしてここでは私が規則を選びます。いいですか?」
「了解、キャプテン!」とアンニーナが言う。
部屋は薄暗い。私は彼女の目を布で覆い、雑多なものが見えないようにした。
「あなたが私の国に入れるということは、贈り物なのです。わかりましたか?」私は尋ねる。
「よくわかりました」アンニーナが答える。
私は安堵のため息をもらした。おだやかな世界に、コントロールが戻ってきた。やっと机のそばに座れる。

「最初から始めます」私は言う。「私は、お客さんのためにきちんと計画を練りました。あなたへの目に、いろんなものが入りすぎます。あなたは先回りしてしまいました」
「ええ」アンニーナがうなづく。「ごめんなさい」
「いいでしょう。じゃあ始めましょう」私は言う。「布を取っていいです」
アンニーナは、布をとてもゆっくり外す。私はデスクのランプをつける。ランプの丸いドームは天井に星空を写し出す。アンニーナは空を見とれようとベッドへ倒れこんだ。いいでしょう、許可していないけれども。
「好きなだけ長くいてもいいです」私は言う。「きちんと正確に聞いているならば」私はあなたにたくさん質問があります」
「どうぞ始めて」アンニーナは言う。

そして私はリストの質問を順に述べ始める。アンニーナは自分はちがっていると思っているが、医者通いは嫌い、ということがわかった。乗馬の先生だったら一番いいと思っている。胸が大きくなるのはかまわないが、乗馬には単純に邪魔である。初めての生理は半年前に来た。それは普通ではないというわけではなく、15歳で来ることもある。人間はそれぞれ違うリズムで変化する。
両親の離婚については彼女は全然コメントしない。
「ほかにききたいことある?」アンニーナは笑いながら言う。
「いいえ」と私は言う。
私は質問の結果に満足している。
「こんどはあなたが私に質問する番です」と私は言う。

母がドアを開けた。母はとてもうれしそうにジュースを載せたトレーを運んできた。
「机に乗せてください」と私は言う。
「なんだか楽しそうね」母は嬉しそうだ。
「もちろん」アンニーナが言う。
アンニーナは私をちらっと見る。
友情成立だ。

かつて、一度も考えたことがない、
一番大事な夢にあってさえも
こんな風にすべてうまくいくなんて、
想像したことがない。

私は自分の決まりを最初に言わなくてはならないのだ、私と過ごすときは、こうふるまってください、と。

すべてうまく行った。

ケーキを食べ、ホットジュースを飲み、(ふつうお客さんにはこういうもてなしをするものなのだろうか?)そしてアンニーナは、私が何を思っているのかとたずね、私はよだれが口にわく、と答えた。
私たちには、思いがけなく素敵な時間だった。
何時間も楽し気に話し込んでいた♡母たち♡を除いて。この世界に対して、父親がスキーの音をたてたので、私たちは覚醒した。私たちも、終わりにしなくてはならなかった。(夕食の時間だ)

最後の会話を終えることができた。
全部が全部、おもしろかった!!!!! 

 

「なぜ私は食べる時の喉の音が好きか?」
「あれ、私は好きなのかな、気を付けたことがない」
「あなたも好きです。とても特別だから」
「やってみて」
(そのとき、アンニーナは猫のように声を出した)
「こういう音を私は好きか」
「はい」
「つまりは、私はそれを楽しんでいます」
「OK」
「食事が好きです」
「気が付いてた」
「あなたは好きじゃないのですか?」
「そんなにたくさんは」
「どれくらいですか?」
「そんなにたくさんじゃない。乗馬とか、ママとか、きれいな服ほどは好きじゃない」
「ここは私たちは結構違います」
(次に彼女はシリ・マーの地図をはった壁を長い間見て、さらに長い間、私をみつめた)
「シリマーってなあに?」
「私の頭の中にある国です。あなたの頭の中には、国はひとつもないの?」
「状況によって変わる」
それから私は、私の国は常に同じ出発点であると説明した。新しい状況が起きると、私の国には新しいアンテナが立つ。(爪で新しい島々を見せたとき、アンニーナの訪問時間は終わりが来た)いろいろ影響を受けた、という表情が見て取れた。

「どんどんどんどん増えます。本当に続けるのが大変。あまりの情報量に息切れします」
「まったく」アンニーナが言う。「で、その時には、怒るんでしょう」
「そうです」同意した。「あなたも時々怒りますね」
「そうね」彼女は同意した。
彼女は自分の遺伝の由来を語った。彼女の父親も同様だったという。父親も感情をコントロールするのが難しかったそうだ。
これについては、まだ多くを尋ねていなかった。もし私がアンニーナから何か学ぶときは、注意深くしなくてはならない。誰が相手であっても、私は慎重であるべきだ。彼女も私をリスペクトすべきである。私の中にある私の国の国境は、私が支配する。

 

 

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