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ささくれ

「お前は、私に似ているから嫌いだ」
と私が幼少期の頃、母は私にそう言って叱った。
何が原因で怒られていたのかはもう思い出せないけれど、その言葉を当時受けた私は、意味も分からずただ驚嘆していたことは思い出せる。

狭い1Kのアパートに水色のカーテン。所々シミがあった。落書きのクレヨンを消そうとして滲んだシミだろうか。
時計はちょうど14:00くらいを指していて、その日の夜はスパゲティだった。
明るい家族のいつもの夕食。いつもは出ないオレンジジュースが食卓にはあった。弟はとても喜んでいた。私もとてもワクワクしていた。

でも、その時だって母は、
私が母に似ているから、
私のことを嫌っていたのだ。

あれから数十年が経ち、私が32歳の時に母は昨日死んだ。家族全員に看取られながら、まだ生きているのではないかと錯覚するようなその寝顔は、ずっと変わらない優しい顔だった。
遺影が立てかけてある豪華な祭壇の前の座布団に座りながら、母との思い出を振り返っていた時に、その話を思い出した。

今思えば、あの時私にあの言葉をぶつけた時の母の年に私は今なっている。

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