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「ありがちな女」が思う「ありがちじゃない女」

レナ・ダナムの『ありがちな女じゃない』(Not That Kind of Girl)を読んで、思ったこと。

 新宿の紀伊国屋書店で、その本を見つけた。『ありがちな女じゃない』。インパクトのあるタイトルだった。白地にピンクの文字で大きく書かれたタイトル、魅力的な本。そこらにある女性向けの自己啓発本とは一線を画していた。「モテる女の…」とか「いい女は…」「フランス人は…」とかの言葉が使われていないのがいい。「フランス人」というキーワードが入っていないのは特に重要だ。開いてみると、第一章のタイトルがすでに「愛とセックス」だった。これはいい。絶対読んでみるべきだ。
 ただ、その時は買わなかった。お金がなかったからだ。それから書店にいくたびに探したけれど、なかなか見つけられなかった。エッセイや自己啓発本コーナーのピンクの表紙やタイトルを見ると「あの時あの本を買えばよかった」と後悔した。(思うんだけど、どうしてこういう本って決まってピンク色が表紙や文字に使われるんだろう。『フェミニスト・ファイトクラブ』ですらピンクだし)
 それから2年後、運よく新しく通い始めた図書館で『ありがちな女じゃない』を見つけた。それも偶然に。やっと会えたね!うれしい!図書館のカウンターに持っていくのに少し照れてしまうタイトルだけど、そんなのは気にしない。

 本は、著者のレナ・ダナムが経験してきた恋愛や友情に関する出来事、彼女のキャリアや家族について書かれた、自伝のような内容だった。翻訳された文なので言い切るのは気が引けるけど、ユーモラスで、率直で、優しくて賢くて、面白い文章だった。本を通して浮かび上がる彼女の人柄につけ、恐らくきっと本人の性格や雰囲気そのままのような文章なのだろう。と思う。こういう時、英語がすんなり読めて、そのニュアンスも理解出来たらいいのにとすごく思う。

 読んでいくうち、私は自分が前提として大きな誤解をしていることに気がついた。タイトルを見て、そして序章を読んだ時には思ったのだ。「これは、周囲になじめなかったり、ひどく孤独に感じることがあったり、自分はあまり”女の子”が得意じゃない(女の子”で”いることも、女の子”と”いることも)と思ったりしている人に向けた応援メッセージ的な本だ」と思いこんでいた。「ありがちな女じゃない」は、世間の枠に収まらなくても大丈夫!私も変人って言われるし!的な意味合いだと勘違いしていたのだ。
 いや、ある側面では私の思い込みもあっているかもしれない。ダナムは自分の失敗談を赤裸々にすることで伝わるメッセージが重要だと考えていると、序章のほうで書いていた。少なくとも、誰かの励みになるようにという目的で書かれたのはあっている。


 がしかし。読み進めるうちに読者は知ることになる。レナ・ダナムがアメリカのアート界隈(?)で相当に影響力があるご両親の間に生まれたことを。彼女自身、幼い頃から表現の才能に溢れた女性だったことを。彼女が制作した初期の映像作品や、TVシリーズの『Girls』は高い評価を受け、世界中で大ヒットしているということを。彼女の書いたこの本、そう、今自分の手がめくっているこの本は、大手出版会社のランダム社が超高額入札して出版する権利を得て、紙に文字が刷られて製本される前から大きな話題になっていたということを。

 ダナムについて何も知らなかったことを恥じるべきだった。彼女は、タイトル通り、そして本当の意味で「ありがちな女じゃない」のだ。才能があり、それゆえに様々な経験ができ、その経験を通じて人として賢い判断ができて、他者に対してとても優しくなれる女性なのだ。この本を書いたとき、若干28歳。そんな人周りにいる?あなたにはできる?28歳で、出版する前から370万ドルの価値がつく文章を書きだせる?

 非常に平易な言い方をすれば、「テンションが下がった」といえる。もっときちんと書くなら、そう、自分自身にうんざりした。ダナムに非は全くなく(あたりまえ)、本はとても面白かった。ただ、私は年の割にはあまりにも考え方が幼くて、大切なことを見逃していたのだ。「ありがちな女」でいる必要はない。自分を「ありがちな女」と思う必要もないし、そうあろうと努力する必要もない。ただそれならばそれなりに、何か自分だけの価値を見出さなくてはいけない。他人に自分の価値は決められない。でも、自分の価値って何か上手く説明できる?それだ。そういうことだ。

 『ありがちな女じゃない』は、とても面白い本なので是非おすすめしたい。したいけれど、1つだけ念頭におかなくてはいけないことがある。それは、「本当にありがちじゃない女は、『ありがちな女じゃない』なんて本は読まない」っていうことだ。

 もし私が心から自分を「ありがちじゃない」と思えた時、その日がきたら、このノートを有料設定にして、370万ドルで売るかもしれない。買う人が現れることを祈る。


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