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躍進の続く東京エレクトロンにとって死角は無いのか?


1.半導体生産装置メーカーである東京エレクトロンとは?

 東京エレクトロンは、1963年に東京放送(現在のTBSホールディングス)の出資により、東京都港区赤坂に資本金500万円で設立されました。当初は半導体の技術専門商社として、半導体製造装置の輸入販売を中心にビジネスを展開していきました。
 その売上高を2022年3月期から急激に伸ばし、2023年3月期の売上高は22,090億円までを得るようになりました。また、これより売上原価を差し引いた売上総利益率は44.6%で相当高く、また、販売費及び一般管理費と差し引いても、営業利益率28.0%に達成しています。これを巨大優良企業トヨタのデータと比較します。トヨタの2023年3月期の売上高は34兆3,676億円で一桁多い結果でしたが、営業総利益率は15.2%に留まりまっています。また、営業利益率は7.9%まで低下します。この様に、東京エレクトロンの高利益ビジネスの形態が分かります。ここで両社の営業利益を、連結社員数で割って、社員一人当たりの営業利益を計算すると、トヨタが726万円であるのに対し、東京エレクトロンのそれが、3,525万円であることが非常に対照的となりました。この様に非常に高い利益率のビジネスを展開していることが分かります。

売上、売上利益率、社員一人当たりの売上の比較

 半導体ビジネスは、1980年代から拡大を始め、当初100億ドル程度の市場であったものが、1990年代半ばには1,000億ドルを超えてから、僅か30年間の間に5倍を超える市場の拡大を続けてきました。半導体製造装置の開発も、本格的には1980年からスタートし、半導体市場の成長と伴に、切磋琢磨して進化してきた経緯があります。半導体デバイスメーカーにとって、先進的な半導体製造装置の確保は必須で、半導体製造装置メーカーとの開発の協力体制を敷きつつ、その装置価格に関しても、寡占状態を許さざるを得なかったことから、高利益のビジネスが維持出来てきていると考えられます。1980年代では、半導体デバイスメーカーからの技術持ち出しの体制で、半導体製造装置の開発が実行されていました。言い換えれば、半導体製造装置メーカーは、半導体デバイスメーカーから学びを乞いながら、その開発を進めていた状態でした。実際に、当時、半導体技術の先頭を走っていたのが日本の日立、富士通、NEC、東芝と言った電機メーカーでしたので、半導体製造装置の技術も、日本を中心として進んできた経緯はありました。これが、2000年を超えた辺りから、韓国勢やIntelへ、半導体デバイス生産がシフトし、更に、TSMCの台頭が鮮明になって来たころから、デバイスを製造するノウハウ、技術が、世界に分散し、製造装置もこれらデバイスメーカーに共有されました。力を付けてきた製造装置メーカーは、その装置の提供に合わせて、デバイスの製造技術も提供する形態に移行して行き、製造装置メーカーによる価格支配力が強化されたものと考えています。1980年代には、半導体製造装置も、1台数千万円台であったものが、近年は1台10億円も超えてきており、そのビジネスが、単価でも10~20倍まで拡大してきて来ました。結果として、半導体製造装置メーカーの高収益体制が維持されてきている理由ではないかと考えています。
 先に述べたように、東京エレクトロンは、半導体関連商品の輸入販売商社としてスタートしていましたが、1970年代のドルショックやオイルショックにより日本経済が打撃を受けたことから、カーラジオ、カーステレオ、電卓などの販売から撤退し、付加価値の高い半導体製造装置へ、軸足を移し、今の躍進の基礎を構築した様です。現在は、半導体製造装置の製品として、レジストの塗布現像装置、ドライエッチング装置、薄膜成長装置、ウェット処理装置を有しています。半導体デバイスの製造工程の内、欠く事の出来ないフォトレジストの塗布・現像を行う塗布現像装置は、世界市場シェアの90%程度を占めるようになってきております。また、ドライエッチング装置は、絶縁膜加工のエリアで強く、シェア30%程度を達成しております。薄膜成長装置は、熱処理装置の提供の歴史が長く、シェアは40%まで得ています。近年、ウェット洗浄装置のシェアも伸ばしてきており、25%程度を達成しております。この様に、塗布現像装置は独占的な地位を維持しており、特に先端露光装置であるEUV装置には、ほぼ、100%の採用と聞いています。また、それ以外の製造装置でも寡占状態を構築しており、価格支配力という意味でも優位な地位を維持していると思われます。
 半導体製造装置メーカーでは、実際にどんな企業活動が行なわれているのでしょうか? 実際の商品である製造装置は、装置筐体、ウェハー処理室、ウェハー搬送ロボット、制御コンピュータ、処理部材の供給系、電源、温度調整機器やポンプを、協力ベンダーから入手して、これらを組み上げることにより生産されています。組み上げラインは、トヨタの車組み立てのようなフローラインも構成可能で、部材のコスト及び納期管理と、トヨタ生産方式の運営により、高生産性の構築できる土壌を有しています。但し、先端デバイスを製造するための製造装置に、特にウェハーの処理室に投入される技術の開発に多くのかつ高度の技術工数と時間が必要で、この部分に大きな資源投入が必要です。この技術の結集が、競争の根源となっています。加えて、開発されたウェハー処理技術が、半導体デバイス製造に効するものかを確認するために、実際の製造装置を準備して確認・実証する必要です。新規処理技術の導入時には、顧客の半導体デバイスを製造しているウェハーを用いた性能確認を行うことも必須となることから、その為に10億を超える装置を社内に準備し、半導体デバイス製造ライン並みの高度な管理体制の整備も必要となっています。更に、開発もしくは採用された処理技術は、半導体デバイス製造で365日24時間の安定稼働と出来栄え維持が必要であることから、長期的な信頼性の保証も必要で、これに投入される経営資源とノウハウは重要な競争力にもなっています。時により新規技術は、長期の運用中に、初期の設計から外れ、異常な処理を発生させる場合もあり、時折、半導体デバイスに致命的な品質に影響を生じることもあり、これに対応するための資源投入が事業を作用する様な事もあり得ます。これら要件の達成のため、東京エレクトロンは、先端技術開発体制、高品質維持のためのノウハウ蓄積、高効率な装置生産体制を整備出来ているということです。そんな事業状況の中で、高利益率を維持しつつ事業を進める体制を構築してきた東京エレクトロンに死角は無いのでしょうか?

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