界のカケラ 〜63〜
ゆいちゃんとやりとりしていても、まだ市ヶ谷さんはこちらを見たままだった。声をかけて欲しそうにモジモジしている様子はいささか可愛かったが、ずっとそのままにしていくわけにもいかない。私はできる限り子供をあやすような声で話しかけた。
「徹くん、徹くんにどうしても会わせたい人がいるんだけど会いたい?」
「会わない!」
「本当に?」
「会わないったら、会わない!」
「そっかあ。残念だなあ・・・ 徹くんに会いたいっていうお姉さんがいるんだけどなあ・・・」
「だれ?」
「誰だろうだろうねえ・・・ 会えばわかるよ」
「じゃあ、会ってみる」
「良かったあ・・・ じゃあ呼ぶね」
「うん」
「深鈴さん、徹くんが会いたいって!」
「徹くん、久しぶり! 元気だった?」
「えー! なんでお姉ちゃんがいるの? だって死んじゃったのに・・・」
「そうなんだけど、今日は特別に徹くんに会える許しが出てね。だから会いにきちゃった!」
「本当に? 別な人なんじゃないの?」
「違うよ。だって誰が徹くんに勉強を教えたの? 黒い紙に虫眼鏡で太陽の光を集めて文字を焼いたりして遊んだよね?」
「うん! 本当にお姉ちゃんなんだね! また会えて嬉しい!」
「お姉ちゃんもだよ! 徹くんのことがね、ずっと心配だったから」
「お姉ちゃん・・・ いなくなってからずっと寂しかった・・・」
悲しそうに話す彼の口調は、殻に閉じこもる前の心の状態と同じだった。あの時の思いを深鈴さんはどう受け止めるのか、深鈴さんが彼に伝えたいことは何か。二人のやりとりに耳をすませた。
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