見出し画像

界のカケラ 〜20〜

私はこの手で大好きな親友の命を奪った。

この時、私の中で何か音を立てて溢れていくものを感じた。それが何かは分からなかったが、ナイフを引き抜きながら、私は赤橋の分まで生きる。生き抜いて日本に帰る。赤橋が命に代えて守ってくれたこの命を大切にする。

そう心に決めて、赤橋の髪の毛の束をナイフで切り、小さな袋に入れた。

辺りを見渡しても誰もいなかった。あるのは自分以外の3人の仲間の死体だけだった。
私は味方の死体をその場に置いて、敵に見つからないよう音を立てずに足早に陣地へ戻った。

陣地へ戻った私は全て司令官と仲間達に報告した。しかし一部の仲間は私を疑っていた。食料を独り占めするために3人を殺しただとか言っているのを聞いた。しかし私にはどうでも良かった。赤橋を失った痛みと比べたらなんてことはない。比べるまでもない。比べるのも失礼だ。軍隊としては味方だが、個人的な味方は赤橋以外はいない。

だからお互いに決めた約束だったとしてもその時が来て欲しくはなかった。来ない方が良かった。
でも現実は残酷で、自分の命を投げ出してまで私を守ってくれた赤橋との約束を守るしかなかった。

私は生きる気力をなくした。

でも命を無駄にするようなことは出来なかった。赤橋が命がけで守ってくれたこの命を無駄にすることは出来ない。自暴自棄にもなれない私はどうしようもない感覚で毎日を生き抜くことしかできなかった。

隊の仲間には内緒で持っている赤橋の髪の毛を入れた袋をいつも握りしめ、戦闘を繰り返した。

そして、赤橋の死から20日過ぎに終戦の知らせが陣地に届いた。
私たちの隊は降伏し、収容所に送られた。

その2ヶ月後、日本が復員船を送り、私は無事に日本の土を踏むことができた。
だけど、それが嬉しいとは感じられなかった。

赤橋と一緒にこの瞬間を迎えたかった・・・

サポートしていただいたものは今後の制作活動に使わせていただきますので、サポートもしていただけましたら嬉しいです。