十年どころか四十年パンのみを食べて生きてきた人物がいる。この私だ。小学校の国語の教科書にパンノキの話が載っていた。ポリネシア原産の15mにも及ぶ常緑高木で丸焼きしてから皮を剥いで食べると食感はフワフワとしていてまるでパンのようだという。それを読みすっかりパンに憑りつかれてしまった。

家は米を作る農家だったがパンを食べたいと言い張って母から折檻されたが遂に折れ、自分だけ毎日パンを用意して貰った。家族から白い目で見られたが構わなかった。米アレルギーなのでと言って給食が米飯の日は自分だけパンにして貰った。それで虐められもしたが構わなかった。

自分で好きに物が買える年齢になると山崎パン敷島パンなどの菓子パン総菜パンを買い漁り毎日そればかりを食べた。大学の頃奇跡にも恋人ができたが彼女の握ったおにぎりを食べなかったので振られてしまった。よろしい。私は母よりも父よりも君よりもこの世でパンが一番好きだ。

マクドナルドのみを食べ続けた男の末路の話を本で読んだことがあったが写真をみると肌は黒ずみボロボロ、目はどよんと曇り酷い有様だったが私もそういう外見になった。それでもパン中毒に罹った私のパン狂いは収まることがなかった。私もマクドのバーガー大好きだ。

念願のパンノキを食べる機会が訪れた。なんのことはない、パンノキは観賞用として普通に日本で販売されているのだ。知らなかった自分を呪った。庭のパンノキに実が成ったとのブログをみつけ早速連絡を取り実をひとつ譲ってもらった。大きさはドリアンに近く直径が20cmくらいか。中を割ると白くフワフワしている。嗚呼。教科書にあった記述が蘇る。興奮しつつ私は果肉をつまみ口に入れた。おかしいな。パンどころかまるで味がしない。そのうち猛烈に腹が痛くなってきた。

パンノキの果実の主成分はでんぷんで加熱しないとお腹を痛くすることになります。そんな記述を見た気がする。でもいいのだ。底辺労働者で天涯孤独、こんな見た目だし生きてたって仕方がないもの。自殺といえば聞こえが悪いが自ら人生の幕引きをする、そんな選択肢があってもよいではないか。

嗚呼。大好きなパンで死ねて私は幸せだ。

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一周年おめでとうございます✨
たらはかに（田原にか）様の企画に参加させていただきました。
毎度長くなりすみません。
パンノキについてはグルメノートの記載を引用いたしました。