市ヶ谷写真

第2話/全9話 小説家・小林敏生の変身

これまでの話/24歳彼女なし、小林敏生は編プロに勤めながらスーパーヒーローの物語を書いていた。高円寺の安アパートで書かれたその小説をどこかに公開するあてはない。鬱々とした生活の中、敏生は何度も繰り返し同じ夢を見てしまう。それは、5歳の時に同じ幼稚園に通っていた井上安子と結婚の約束をしたときの夢だった。5歳の敏生はファイブレンジャーレッドになって安子を迎えに行き、結婚する約束をする。しかしその時、井上安子が最後に何と言ったのか敏生は思い出せない。一方、井上安子は井上エリスと名前を変え、人気女優となっていた。


 私の仕事はプロのお人形さんだ。今の時代が求める、24歳の女の子のイメージを私にインストールする。太すぎず細すぎず調度よいスタイルで、メイクはナチュラルに。髪は自然な茶髪で長さはミディアム。ワンピースや、淡いニットやブラウスと膝丈のスカートが基本のファッション。女子大生から結婚前の二十代の女性がイメージ。

これが私の仕事になるのは、彼女たちは自分にお金をかけるから。メーカーや広告代理店が彼女たちをターゲットにした商品を打ち出すから。そのアイコンが私の仕事。

 この仕事が嫌な訳じゃない。
 私はこの仕事に誇りをもっているし、子役のときから応援してくれたお父さんお母さんには本当に感謝している。でも、最近もらえる役のすべてが二十代の女子大生かOLなのに、飽きを通り越して怖さを感じ始めていた。


 スタイリストさんが楽屋に運んでくれた「MISCHMASCH」のダスティピンクのワンピースを眺めながら思う。私のイメージで、私が最高に可愛くなるように選んでくれた、トレンドのくすんだ色味のワンピース。それが彼女の仕事とはいえ頭が上がらない。
 「SOUP STOCK TOKYO」のオマールエビのビスクにバケットを浸して食べる。海老が溶け込んだ濃厚なスープが身体に染みる。スタイリストさんが楽屋に衣装を運ぶとき一緒に持って来てくれた今日のランチだ。以前好きだってTwitterで呟いたら買って来てくれた。井上エリスさんくらい有名になっちゃうと、お店に買いに行くのは難しいでしょって。


 最近は少しでも一人の時間を取れるよう頼んでいる。今日のランチもテレビ局の楽屋でひとりでとることにした。シンプルで清潔な白い個室、リラックスできるように作られた畳敷きがありがたい。空転する思考が止まらなくなるのを自由にさせておくことで、少し心が緩んだ。ちゃぶ台に肘を付きながらオマールエビのビスクを口に運ぶ。
 トレンドのファッションを着て、SNS映えするランチを食べていれば事務所のみんなは安心してくれる。

 だからきっと、私がシャーリーズ・セロンが『MADMAX~怒りのデスロード~』で演じたフュリオサみたいな役をやりたいって言っても、きっとオーディションのプロフィールには書いてもらえない。フュリオサみたいに髪を坊主に刈り上げて、超大型トラックで荒野を行く、将来はそんな四十代の女優に私はなりたいのに。

 やっぱりトレンドの女の子は安心感のある可愛い女の子であるべきで、戦う女性はナンバー2やナンバー3に名前が上がることはあっても、一番にはなれない。
 女性たちは、男性に勝ちたいから強くなりたいわけではないのに。男性も、自身の弱さを許すことで救われることがあるように、私には思えて仕方がないのだ。

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