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角野隼斗ツアー2022 "Chopin, Gershwin and ..." @ 東京国際フォーラム (2022.2.20)

現地で叫べなかったから、ここでまず叫びたい!

BRAVO HAYATO!! 
BRAVO Cateen!!

東京フォーラムのホールAのロビー
「写真撮影はお1人様1枚まででお願いします」
とアナウンスされるほどの人気スポット

今夜の感想、私が知る言語、私の稚拙な表現力や乏しい語彙力では到底言い表せない。しかし、現地組(前から4列目;センターより少し右寄り;ピアノの大屋根の斜め右)として、ホールで聴いたフレッシュな感想を、写真も少し差し込みつつ、断片的にでも残しておきたい。

今回はプロのライターさん(飯田さん道下さんetc.)も複数いらしていたようなので、専門的な観点からの感想はそちらを楽しみに待ちたい。

開演後、場内が暗くなり、舞台左右のスクリーンからは、プロローグ映像が、モノトーン・無音で流れた。余計な色彩の情報に邪魔されず、角野の姿、表情を見ながら、流れている音も想像しながら、私も2021年に彼を応援していた日々を思い出した(FC有料会員になると、FCサイト内でプロローグ映像が見られる)。

開演10分前のホールAの様子
(1階右側の中ほどから)
舞台の近くから撮影した客席(休憩時間中)

今夜のプログラムも最初から最後まで素晴らしかったが、私が特に衝撃を受けたのはファイナルで初めて聴いたガーシュウィンのピアノ協奏曲へ調だった。そしてとりわけ心に沁みたシーンは「ショパンの部屋」をイメージしたアップライトでの演奏だった。感想は主にそこに絞る。

※ 私は4公演に参戦し、この前3公演については、かなり細かい描写含め、感想を丁寧に書いてきたので、今回は一部分に焦点をあてることにした。

●George Gershwin/ Piano Concerto in F Major

複数の自叙伝に加え、先週金曜にNHKで放送された「星野源のおんがくこうろん」(2/25までNHKプラスで見逃し配信有; 未公開トークも有)、そこで紹介されていた映画「アメリカ交響楽」(映画の紹介はこちら参照)を観たばかりだったので、ジョージの生き様やP協奏曲へ調の誕生秘話など記憶に新しかった。

また世界の名盤と言われるアンドレ・プレヴィンパスカル・ロジェなどの演奏も聞き、曲の流れをある程度耳に入れて今日の公演に臨んだ。

今夕の角野の協奏曲は、名盤の演奏を圧倒的に凌駕する演奏だった。これはファンのお世辞ではない。もっとも音源と生演奏を比較するのは名盤に失礼だと思うが。

ジョージが1924年1月から2月にかけて約3週間で仕上げたラプソディ・イン・ブルー(ジョージはピアノ2台Ver.を作曲;グローフェがオーケストレーションを担当)と違い、P協奏曲ヘ調は、ジョージが1925年に約5カ月かけてピアノの前で作曲し、管弦楽パートも単独で作曲した。60人ほどのオケを自費で雇い、協奏曲の試奏を行い、響きを確認して手直しも行った末、完成した(参考文献:「アメリカン・ラプソディ」)。

ジョージがその時に頭に浮かんだアイディアや音を表現した渾身のピアノ協奏曲、角野がどのように弾くのか興味津々だった。

第1楽章 アレグロ

冒頭、少し哀愁が漂い、(舞台の赤っぽい照明演出も手伝って)NYの夜明けのような感じだったが、徐々に賑やかに明るい曲調になっていった。

第1楽章のイメージは、映画「アメリカ交響楽」の前半、NYのティン・パン・アレーの音楽家たちの仕事場、酒場、劇場、友人宅などで、ジョージが仲間と談笑したり、ピアノを弾いたり、といった日常のシーンが次々と脳裏に浮かんでくる躍動感に溢れるものだった。

私は1945年公開のモノクロの映画を観たが、角野さんが全身で紡ぐ多彩な音色と脈動するリズム、それに寄り添うオケとのハーモニーなどによって、さまざまなシーンが、鮮やかな色彩を帯びて舞台後方に映し出された瞬間が何度もあった。ミュージカルを観ているかのような楽しさがハーモニーに溢れていた。

この15分足らずの間に、ホールは1920年代のニューヨーカーたちのエネルギーや熱狂に包まれた。根底に確かに流れる当時のダンス音楽「チャールストン」のリズムに加えられるスタイリッシュなアレンジ、時にパーカッションを叩いているかのようなスタッカートが沢山出てくるパート、身体全体がピアノと打楽器を足して新しい楽器になったみたいな瞬間、クラシカルなパートではショパンが降臨したかのように繊細で美しい音色、さまざまな楽器との絶妙な掛け合い・・・枚挙にいとまがないほど、角野に牽引された第1楽章は実にカッコよかった。

映画のジョージの姿と重なる部分が多々ありながら、やはり「角野らしい」スタイリッシュさが際立った演奏だった。

4列目からはっきり見えた角野の表情は本当に楽しそうで、それを肉眼でずっと観ながら身体に降り注ぐ音を全身で感じ、文字通り音楽に酔いしれた。

力強く終えた1楽章の直後、すぐに大きな拍手が自然に湧き起こった。私は曲の目まぐるしい展開と勢いに圧倒され、1920年代のNYから現実にすぐ戻れず、拍手に乗り遅れた。が、拍手したくなるほど興奮した方々の気持ちは伝わってきた。マエストロが以前ツイートされていたことも思い出し、角野もマエストロも嬉しかったに違いない。

第2楽章 アダージョ - アンダンテ・コン・モート

トランペットが切ない感じでブルースを吹くところから始まり、しばらくして(トランペットの代わりに?)角野は左手で小型のピアニカ(今日は茶色)を持ちながら、オケに合わせ右手だけでブルースを奏で始めた。ピアニカを吹く時にはビブラートも利かせ、哀愁が引き立てられた。茶色のピカニカはラプソディで良く登場する赤いピアニカよりブルース感のある音色に感じた。手持ちできるサイズの茶色を選んだのかもしれない。ピアニカでのブルースを聴いて、ツイートの「なおさらブルースなのでぜひ」に納得。

2楽章は他の楽器やパートとの掛け合いも多く、それも楽しかった。

途中ソロでは、ピアニカとピアノにブルースを歌わせていて、相変わらず器用な鍵盤さばきに感心。移り変わりの激しいニューヨーカーの生活シーンが見えた第1楽章とは違い、ジョージが自分の部屋でピアノの前に座り、葉巻をくゆらせながら、頭に浮かんだ着想を音にしようと、ピアノをポロポロ弾いているような雰囲気でもあった。

角野自身もツアーファイナルを迎え、少し寂しく感じ、駆け抜けてきた2021年とツアーを振り返って、物思いに耽っているようでもあった。

第3楽章 アレグロ・アジタート

2楽章と打って変わって、疾走感に溢れた第3楽章。1、2楽章に登場した旋律が時々顔を出しつつピアノもオケも一同が打楽器のようになり、リズムを刻んでいく。1楽章以上にNYの街の熱気が増して、賑やかに活気づいていった。自由自在に、縦横無尽にピアノを弾く姿、マエストロとアイコンタクトをしながら、オケと掛け合う姿と、楽し気な表情は、再び「アメリカ交響楽」に登場するジョージの姿と重なった。

カデンツァ風のピアノソロで、ラプソディ・イン・ブルーのフレーズがさりげなく奏でられた時、会場の前方席では静かな笑いが起こった。つい最近のCateen's Piano Live(最近のピアノライブ(2022.2.17)では、協奏曲とラプソディのいいところがハイライトされてメドレー風に演奏されたが、YouTubeのライブ感もあり、遊び心に溢れていた。その時の茶目っ気ある表情も忘れられない。

最後、電車が走り出すような勢いで、疾走感を持って終わりを迎えた。全身でピアノを奏でる角野の姿は試合を終えたスポーツマンのようにも見えた。とにかく野心的なピアノ演奏だった。

1925年12月3日の初演の際、ある批評家たちの間では、この協奏曲がクラシックなのかジャズなのかを巡り議論になった(参考文献:「アメリカン・ラプソディ」)。

伝統的な協奏曲の構成を用い、管弦楽器を活用しつつも、ジョージが幼い頃から耳にし、身体に染み付いたダンス音楽やジャズを旋律に入れたところが当時は異端とも受けとられ、一方で革新的とも評された。角野の演奏は、土台にクラシックがある安心感があり、その場の直感で即興的にアレンジが加えられ、程よい遊び心も散りばめられたもので、ジョージが曲に託したことを体現していたのではないか。

今日のピアノ協奏曲、これまで聴いた名盤を遥かに超えたワクワク感があり、ピアノを弾いていない時も膝の上でリズムをとる手、ビートを刻む足含め、ピアニストの枠に留まらない自由な姿が印象的で、最後まで引きこまれっぱなしだった。

当面、角野の演奏、藤岡マエストロとのコンビが私の中ではベストなピアノ協奏曲であり続けると確信。以下はマエストロの感想。

●心憎い仕掛け... ショパンの部屋

前半のプログラムで、舞台袖にいったん引っ込むのかと思いきや、袖方向ではなく、舞台後方に歩き始めた。私の席からは何があるのか、仕掛けが見えなかったため、何が始まるのか、最初は分からなかった。ここでは、そこで弾かれた3曲を振り返る。

角野隼斗/Chopin 追憶

ライトが照らされるなか、角野のオリジナルの「追憶」がかすかに聞こえてきた。バラード2番をモチーフにしたメロディーがアップライトで奏でられ始めた。

ショパンが生きた時代の彼の家のサロンに招待されたようでもあり、角野の鍵盤ランドにお邪魔させて貰ったようでもあった。帰宅後に角野のツイートで知ったが、ここはショパンの部屋のイメージだったと知った。ファイナル公演、角野劇場に相応しい場に思えた。

1843年、ショパンは自分のアパート用にプレイエルのアップライトを購入したらしいが、そんなショパンを思って舞台に部屋を作ったと思うと、その演出に胸が熱くなった。しかも自宅に迎えたばかりの相棒、アップライトを舞台に連れてくるとは!

3つのソロ講演でも心に沁みた「追憶」の演奏、今夜はアップライトならではのやさしい音色、カタカタするレトロな響きを静かに堪能した。5,000人がいる会場なのに、私だけに弾いてくれているような錯覚に陥る不思議な魔法にかかった。同じような感想を持った角野さんのバンド仲間、大島さんのツイートを見つけて嬉しくなった。

Chopin Mazurka Op.63-3

続いて、後期マズルカもショパンの部屋から奏でられた。これはショパンが1846年に作曲した晩年の作品だが、1843年に購入したアパート用のアップライトで作ったのかもしれないと思うと、こちらもそのショパンに寄り添って弾いているように思え、物寂しげな旋律がより一層心に沁みた。

En Core: Chopin/ Piano Concerto No.1, 2nd Movement (Solo Ver.)

後半プログラムでガーシュウィンのピアノ協奏曲へ調を終え、マエストロとオケを見送ったソリストは「もう少し弾かせてください」と言って、再びショパンの部屋に向かった。

ソロ公演で弾いてきたパデレフスキのノクターンを弾くと思いきや、聞こえてきたのはショパンのピアノ協奏曲1番の第2楽章。ホール内は一層静かになり、観客は甘美な調べにじっと耳を傾けた。

後半プログラムで、もう聞けないと思っていたI Got Rhythmを聴け、特別なオマケに満足していたが、最後の最後に「とっておきの贈り物」を用意してくれていた。と私は受け止めたが、角野は2021年を振り返り、集大成のコンサートの最後にショパンに今の気持ちを伝えたかったのかもしれない。ガーシュウィンで走り抜けて、まだ息が上がっているだろうに、彼は今度はショパンと向き合っていた。

アップライトのやさしくてあたたかくて、何となく切ない音色の第2楽章の旋律は心に深く沁みた。

休憩時間に撮影したアップライトコーナー
舞台の下手の奥にあった(舞台の際から撮影)
Zoomで撮影したアップライトのある場所

●撮影OKのEn Core: Chopin/ 子犬のワルツ

ファイナル公演でも撮影させてくれるサービスはあった。これも今回のツアーでは最後かと思うと寂しくなった。楽しかった思い出を振り返れるように、私の席から撮影した写真のコラージュを貼っておきたい。

「写真撮影OKにします、シャッター音とセッションします」から舞台袖に去るまで

●最後にまとめらしきことを・・

というタイトルをつけたが、まだ興奮していて、今は気の利いたまとめなどできる精神状態にない。

角野さんが2/20 22:55にツイートをして来た時、ただ頷くだけで、リプを返す言葉が出て来なかった。一晩寝てもまだダメ。気の利いたことを言おうと思うから、気軽に書けないのもあるのかもしれない。

大阪沼津札幌と3つのソロ公演を経て臨んだ東京フォーラムでのファイナル公演では、特にガーシュウィンのピアノ協奏曲へ長とアンコールのショパンのピアノ協奏曲第1番2楽章に心を奪われた。

もちろん、ソロ公演で聴いてきた他の曲もファイナルのために工夫を凝らされた照明含む演出の数々も本当に素晴らしかった。

現地組ならではの感想、ちょっと残念だった点を率直に書いておく。コ口ナ禍ゆえに行われていた換気の音がホール中にずっとゴォーと鳴っていたため、前半のクラシックプログラムでは気になってしまう瞬間が度々あった。また、5,000人収容のホールで響かせるためには仕方がないが、前方席でも純粋な生音を聴き取るのは難しく、マイクを通した音を聴くことになるため、2/5の札幌で聴けたような繊細な微弱音、深みのある低音など、生の音色を聴くのは難しかった。マイクを通した音が全体的にフラットに聞こえてしまったところは否めない。
だが、後半プログラムでは、換気の音も、マイクから音ということも気にならないほど、音楽に没入できた。ガーシュウィンやオケものには問題なかったのかもしれない。配信ではどうなのか、今晩聴いてみたい。

角野の恩師、金子先生が上手く感想をまとめられていた。角野が最初から最後まで2時間半ずっとドラマの主役で、観衆を飽きさせることなく、魅了し続け、まさに会場との一体感を創り上げていた。最後多くの観衆が自然にスタンディングオベーションをし、拍手はなかなか鳴り止まなかった。最後の最後のカーテンコールで、何度もお辞儀し、胸の前で手を合わせて、ありがとうを伝える角野も感極まっていたのが表情や仕草で分かり、私も目頭が熱くなった。

角野さん、コ口ナ禍の難しい状況下、スタッフの皆さん含め、万全の対策を講じてのツアーの遂行と完走、本当にお疲れさまでした。
全身で音楽を届けて下さり、最高にHappyな時間をありがとうございました。
角野さんがずっと失いたくない少年の気持ち、各公演から伝わって来ました。

全国ツアーは一区切りですが、これからも角野さんしか作れない音楽を楽しみにしています!

オマケ: 沢山のフラワースタンド

休憩時間にいったんホールの入口から外に出て、飾られていたフラワースタンドを観に行った。贈り主さんのお名前を拝見しながら、2021年に知り合ったり、もともと縁のある方々から愛されていることが伝わってきた。春らしい華やかなお花たちに私も癒された。

フラワースタンドの端から撮影(圧巻の眺め)
左側から
真ん中から
右側から

【2022.2.22 (猫の日)追記】docomoのCMで綾瀬はるかさんと一緒に英雄ポロネーズ!!

全国ツアーでいつも1番最後に弾いてくれていた英雄ポロネーズがTV CMで観られることが発表され、ビックリしている&嬉しい!

「あなたと世界を変えていく。」 人間拡張篇 30秒 

綾瀬はるか、ピアニスト角野隼斗とシンクロで流暢に演奏!/NTTドコモCM+メイキング+インタビュー 

(終わり)後日配信を観て追記する可能性有

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