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不可思議な不可抗力を運命と呼ぶのかしら_同時代ゲームを読んで

それは去年の終り、
文芸会のメンバーの方から
「欲しい本があればもらってほしい」
という御触れが出ました。

これ幸い!
と飛び付いた私は、
他の人たちと図録を見ながら、ぱっと
「これが読みたいです!」
とこの本を譲ってもらうことになりました。

それがこの、
大江健三郎さんの『同時代ゲーム』です。

箱の中に入ってる状態
外したときの裏表紙
外したときの表紙
そしてカバーを外すと髑髏が現れます。

私は本が好きです。
本を勧めるのも好きです。
でも、
この本は、「何か面白い本ない?」と聞いてくれるあまり本を読まないひとや、「最近何を読みました?」と話しかけてくれる本好きなひとにも勧めていいのか迷う本でした。

色んなイベントや、締め切りがあったとはいえ、
2024年に入ってすぐ読み始めたのに、
(その頃は毎日50ページくらい読んでた)
読み終えたのはつい最近、数日前、読み終えたことに自分がびっくりした三月の半ばの昼前でした。

お話自体は、
たぶんそんなに複雑ではないのだと思います。
お話と言うか、構造?
作り?
そういうものは説明できると思うのですが、
この本を読んで得たものを書くのは、、、、
果たして何を得ただろう、、、、


舞台は時空の違う日本。
その日本の香川の山奥にあるとある地域に、
神社の神主として父が派遣され、
その土地に根付いた神話に魅了されていき、
日本神話とは全く別の産道を通ったそれをどうにか書き残そうと、
自分の子供である双子のうち男の子にその記録者の役目を、
そして女の子の方には、
この土地の神話に欠かせない登場人物であり、
事実その土地に息づいている“壊す人”の巫女となるようにスパルタ教育をはじめるのでした。
その記録者である双子の男の子、
が大人になった人物が主人公というのか、語り部です。

複雑に、繊細に愛している双子の妹へ、
海外での教師の職に就きながらの生活の中で、
過去に埋め込まれた神話の様子、
幼い頃の強烈な体験、
妹への憐憫のような憧れというのか、
尊敬を劣情に混ぜ込みながら、
過ごした子供時代、
そして父や兄、弟のことなどにも触れながら、
今と過去と遥かかつてが絡み合い捩じり合いながらつづられた手紙、という形で書き記される「神話という歴史」の「記録」を読んで行く、
というものです。

人里から外れることになった一行にいた“壊す人”が爆薬で吹き飛ばした、
山奥の黒い壁の奥からは、
悍ましい悪臭の何かが溢れ、
それが流れ切ったあとの土地に人々は住処や畑、信仰、村の在り方を定めていく。
“壊す人”は時々時に置き去られた神さまのように扱われ、
時には思念のなかに潜り込み村の人たちに戦闘術や経済的な強みをもたらし、その死を司ったものを抱えたまま山に、村の土に、水に、村人たちの体内に、その存在を静かに巡らせたまま“壊す人”は今に至り、
そしてそれはなんと妹の巫女としての素質の高さによって、
犬ほどの大きさにまでになっているという。

不可思議と、
戦争の最中や、そのあとの日本の空気感、
何かを一心に信じるひとびとの結束の重たさ、
そしてそれに血を分けられたわけでもないのに導かれるようにその神話を手渡された双子。

うねるように物語は進み、
語られる情報は過ぎるときもあれば少なすぎて途方に暮れることもある、というような、作者の手の中でこねられているようななんとも分厚い温かさに並走されながらの読書になりました。

一度読み始めても10ページ読んだら満腹になったり、
5ページで閉じたりしながら、
なんとか半分読んだところでしばらく開けることもせず笑
その後、唐突に読みたくなって俄然読む気を高ぶらせて読んでいけたり。

実質なら一か月かからなかっただろう時間ですが、
結果三か月半かかったのでした。

不思議なのは、400ぺージを越えたあたりで
「ああ、もうちょっとで終わってしまうなぁ」
と惜しむ気持ちまで湧いてきてしまったこと。
あんなに早く終われと思った最初だったのに笑

そして読み終えたラスト、
家族という宇宙を、村と言う集合体の天体構造と、
神話という絹のような繊細で、それなのに強靭なものに編み上げられた土地の中の、そこに生きることで開く自身の宇宙でつつみこんだように思いました。

あー、面白かった。
そう思って、閉じたとき、
「読み切れた、、、」
と少し呆然としてしまいました。

貴重な読書体験。
よく分からない、話は分かるのに、何がかかれているのかが分からない。
それなのに面白い、読んじゃう。
そうやって読み切った一冊でした。

丁度読み終えた日、
同じように読んだことがあるひとにそれを言うと、
「読み終わったの!」と笑ってくれました。
そしてお互い、本が好きな人にさえ勧めにくい本だったね、と言い合ったのでした笑

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