INVISIBLE WORLD〜理想と現実のはざま〜
アブソリュートは、深海1000mまで落ちていた。
その世界はとても暗く静かで、体も心も包み込む、そんな場所だった。
母親のお腹の中にいるような胎児の気分になった。
守られている安心感があり心地はいいが、自分で身動きが取れずもどかしい、そんな場所。
意識は鈍磨し苦しみや悲しみ、恐怖といった感情はなくなっていった。
ここにいれば何も考えなくていい。
アブソリュートは思った。
ああ、ここは楽だ。
現実世界に比べれば。
俺は軍人をしていた時に、多くの憎しみや苦しみをみた。そんな世界から多くの人を救い、平和な場所を作りたかった。誰かを守ることが嬉しかった。
でも病気になってそれができなくなって、全てがどうでもよくなった。
俺の理想はー・・・
立派な軍人になって国のみんなや、家族、大切な人を守れる男になることだったのに…。
ああ、笑えるな。
アブソリュートは沈んでいく。
そういえば、以前店の定員に怒りをぶつけ荒れていたな。
俺は生きている資格はない。
ああ、なんてだめなやつなんだ。
ずっとそんなことを思う日々だったな。
絶対もう軍人にはなれないし、軍人じゃなくなった俺は、絶対に誰も助けることができないんだ。
ああ。
アブソリュートは深く深く沈んでいく。
沈んでいく中、海の底に目をやると小さな光が見えた。
アブソリュートは目を凝らした。
その光の中に微かだが人影が見えた。
コア!!
その人影は、コアだった。
コア!? あれは、コアじゃないのか・・・・。
そうだ、絶対にそうだ!
しかしコアは近くにいるようで遠かったーーー
それは太陽のように、暖かさを感じて目視できるのに
実際はとてつもなく遠く、全く手の届かない存在であるようにー・・・
アブソリュートは叫んだ。
コア!コア!起きろ!コア!!
アブソリュートは意識の中で叫んだ。
コアっ・・・・。起きてくれ。
アブソリュートはコアと出会った時のことを思い出した。
そうだ、お前は俺が絶望的になり周りに当たり散らしていたとき、友達になろうとしてくれた優しいやつだ。そんなお前の屈託の無い笑顔に、俺は癒され救われたんだ。
そうだ・・・、俺はこの笑顔を守りたいと思ったんだ。
アブソリュートはその気づきを得た瞬間、自分の中で何かが再生されるのを感じた。
そして瘡蓋のように以前の自分が剥がれ落ち姿を現した。
その姿は悲しげで、苦しそうだった。
そうか、俺は悲しかったんだ、苦しかったんだ。
今まで耐えていたんだな。
もう、苦しまなくていい。
すまない、耐えてくれてありがとう。
剥がれ落ちたその姿は海の底へ消えていった。
そうだ、俺の価値は変わらない。
ならば方法を変えるだけじゃないか。
大切な人を守ることが俺の価値だ。
コアを守ることが俺の価値になってたんだ。
コアを助ける。そのためにここにいる。
こんなところで沈んでいる場合じゃねえ!!
するとアブソリュートの体は、一気にコアから遠のき、コアはブラックホールに吸い込まれるようにアブソリュートの視界から消え、アブソリュートは水面へ上がった。
ぶはっ!
アブソリュートの顔が水面に現れた。
アブソリュート!!
ピスフールとエモは叫んだ。
心配そうに見つめるピスフールの傍で、エモは興奮して叫んだ。
君たちすごいな!!!
ポカンとしている二人に対して、エモは笑いながら興奮し話した。
この海で溺れた人は、基本的に帰ってこない。訓練を積んでいないならよけいだ。
この海は人生に迷う人たちを引き寄せる力がある。だから精神面の弱い人たちがこの場所をよく訪れるんだ。
自然は容赦ない。
その人が死にたい、消えたいと望めば海はその体をさらっていく。しかし自分の価値を知り必要な行動を起こせる人には、海は何もしてこない。ただそこあるだけだ。
君たちは溺れた時に、自分の価値に気づき行動を起こそうと思ったんだ。すごいじゃないか。
呆気に取られている2人を気にもとめず、エモは話し続けた。
そういえば、
まれにPTSDとかの強い精神的ショックを受けた人が、体はその場に留まり、魂だけが海にくる現象があるらしい…。
そういう人らは意識だけがなくなり、生命反応はあるという。
僕はあまり見たことはないけどね。
アブソリュートは目をまん丸くして、エモのかたを強く掴んだ。
それは本当か!!俺は友達を海の中でみた。
そいつは現実世界で意識を失って戻らない。体は保管されているんだ!
おそらく精神的なショックが原因だと言われたんだ!
アブソリュートの息は上がり、すがるような目でエモを見た。
エモは白い歯を見せ笑いかけた。
その子はこの海の底かもしれない。
見てくださり、ありがとうございます♡これからもあなたが楽しく、健康的な人生を送れるよう、お手伝いができたらと思います! これからも面白い物語の提供や企画をする予定です!サポート貰えたら嬉しいです^_^