フォローしませんか?
シェア
広田修
2015年6月21日 04:44
どんなに醜い人でも人を愛することができる愛することに資格は要らない愛は誰をも美しくするどんなに迫害を受けている人でも人を愛することができる傷だらけの愛には傷の数だけ幸福が宿るどんなに年老いた人でも人を愛することができる愛は決して衰えることがなく愛する人はいつまでも瑞々しいどんなに絶望している人でも人を愛することができる愛することは諦めなくていいすべてを失っても愛
2015年6月18日 08:43
生まれてくることをたくさんの罪行を積み重ねていくことを風の広がりそのものである行政官にゆるされたときから私も同じ分だけ他人の罪行をゆるすよう定められていた私は未来に向けられた契約を結んでこの世に生を受けたのだこの契約書は今でもあの風のどこかに表現されているいくら他人がゆるそうとも自分の罪は大風として吹き荒れ続け不動に残り続けるだが他人が自分に対して働いた罪ならまだ柔
2015年6月17日 05:44
世界中の海から集められた追いきれない広さと迫りきれない深さあるいは群れをなす魚の一匹が発したどこまでも届く一瞬の輝きそういうものが個人のはるか遠くまで開け放たれた借り物の一室に湿り気を届けるそれが絶望だ絶望は一つの生命を持ち個人の生命と交信して渦を分かち合う絶望から贈られる湿った渦の構造は極めて難解で飛散していて個人の人格はそれを収集し解明するためにどこまでも低い沙漠へ
2015年6月14日 08:48
こんなに晴れているのにこんなに暖かい朝なのに激しく雪が降っている様子がはっきりと幻視される今日は真冬すべてのものは明らかに死んでいるただ物質が動いているだけなのに生命を持っていることを疑わない生命を成立させるあの躍動がすべてのものに欠けているのにすべてのものは自分が死んでいることに気づかず小賢しく生活を続けている俺は悪者でいい嫌われ者でいい被害者でいい世の災厄を一身
2015年6月11日 05:40
人のいないオフィスでただ一人沢山の暗号を受け取っている私は組織からはぐれたかのように一人働いているがその実は組織をつなぐ要となるために組織により深く入り込んで一人になったのだその組織の要に送られてくる無数の暗号明滅するLED持ち主不在のパソコン静寂を埋める風を受けたブラインドの騒音すべてオフィスにあるものは幾分膨張し人間の領域に踏み込みながらひそかに暗号を送りつけてくる
2015年6月6日 07:27
裏切りは地の果てへといずれ続く人のいない棺花々でいっぱいだけれど人間が不在である次々とメロディーを殺戮していく華やかな波動私は人を裏切ったことが愛する人を裏切ったことがそして私自身も裏切ったことが――棺には失った愛の形だけが詰められ強雨と海との境目につまりは私の流体時間の研ぎしろへ結ばれなかった二つの愛の末尾を別々に棺は流れる私は人から裏切られたことが信じていた
2015年6月1日 05:47
疲労は人間を一つの謎にする混沌とした問いかけの集合として人間は解決されないまま宙吊りとなるそのようなときには音楽が必要なのだ音楽の一つのフレーズが人間の混沌とした問いかけの一つと符合する問いに対するふさわしい答えとなる音楽はいくつもフレーズを繰り出して行って問いかけとどんどん符合していき人間は解決されて宙づりの混沌から戻され大地に根差して厳密に構成され理性と光と規律とを取り戻
2015年5月31日 04:53
俺はとうとう人間の果て人間の意味するところの一番端っこでようやく意味の体系にぶら下がっている人間たちよそのまなざしをやめるんだしぐさをやめるんだ表情をやめるんだお前たちが過剰に発してくる粘着液を俺はことごとく固化して粉砕している人と人との情緒のやり取りや連帯はとても不潔で余分である人間は宇宙に一人だけいればいい言葉も発さずただ物質として存在していればいいそのとき人間は孤独
2015年5月28日 04:59
今日も俺は社会の中で機能して機能の回転を続けたまま帰途についた街はみんな俺の味方だ働く車、働く店に、働く街灯・信号機働くこと、役割を果たすことについてみんな平等で親しい星明かりも人の目の輝きもイルミネーションや信号灯に等しく木々のざわめきや風の音も自動車のエンジン音や踏切の警音に等しい自然も人工も分け隔てなく機能の連関の中に大きな輪の中に連帯している俺もまたひとつの機能と
2015年5月23日 18:54
連日深夜まで残業して、さらには上司からの叱責などのストレスにさらされて、私は発すべき声も思考すべき言葉も抜き取られてしまった。朝目覚めて外が明るくなっても、いつの間にか孕んでしまった暗黒に吸収されて、私には幾分も光が届かなかった。私は重力に屈しきれず、地衣類のように朝の底を這いながら、自分の身体の至る所に重く沈殿した社会というもの、責任というもの、労働というものの元素が代謝を狂わせるのに任せていた
2015年5月20日 06:17
車窓に映る自分を眺めるこのスーツを着た疲れきった青年は何者だろういや、何者でもない、ただの「夜」だ何者かでありたいようだが何者になりたいかも分からずただ何者? という問いとしてしか判然と存在できない私は会社員? 全ては虚構でしかない過ぎ去られていく雨の夜、降っているのは誰の涙だろうかもちろんこれはただの水だけれど誰かが流した涙だと考えるとこの夜を静かに断罪するような雨の空
2015年5月17日 06:53
人間の体は労働により徐々に疲労していきある真夜中に一つの硬い器となる器は木ずれの音も雷光もなにもかも呼び寄せてきれいにその中に収めてしまう疲労というこの硬い器には幾つもの突起があって夜風で飛んでくる他者の息吹のようなものをひっかける革命は沈降した疲労は勃発した器の表面に走る静脈には労働だけでなく生活や恋愛や享楽なども含まれる疲労は快楽からいちばん生じるためそして労働は最も禁
2015年5月16日 04:02
若い女子の親友二人組あなたたちのおしゃべりは誰の毒にも薬にもならずその笑顔は野の花のように何物とも親しい時間をせき止めることも空間を汚すこともなくお互いだけに通じるユーモアで呼応して月のように辺り一面を明るく照らし出すあなたたちの歩くところで微笑は感染していく教室も食堂も街路もそこにあるすべてが微笑み始めるあなたたちは微笑の源泉何物も傷つけず何物も益さない利益や害悪の応酬に疲れ
2015年5月7日 03:57
真昼のビルディング!光があかるく暴くすべてのものを熱として放射し時刻がリズミカルに告げる難問をその構成で反駁し太陽の地上への君臨をその巨きさの中に摂り込み青空が拡散していくのにあわせて自らの広がりを拡散させる澄みきった建築的情熱が今街中の道路に素早く流し込まれていく立ち昇った炎の柱でもあり長い時間をかけて固まった氷の柱でもある真昼のビルディング永遠に燃えながら永遠に凍っている