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★★★★あえて隠してるけどこれは渾身の力を込めて這い上がってきた作家スポ根物語であり彼の”漢気”にただただしびれるのだ...「失踪日記2 アル中病棟」吾妻ひでお コミックス 漫画 レビュー

正直なところ、一巻目の前作の時は、作者の意図している事がさっぱり解らず、ひたすら当惑したのだ。

ところが、今回の作品からは、枯れた草から再び芽が出たかのような、すがすがしい感動を受けた。

1作目は露悪的な強烈な負の感情が乗り移ってくるようでこっちまで辛くなってくるような作品だった。

吾妻ひでおは、サブカルの走りというか、知的なSFマンガを描く人で、また蠱惑的な美少女がとても上手い漫画家だった。なのになぜこれ???

しかし、2巻を読んだ時、私は「あっ…」と突然腑に落ちた。この人が描きたいことがなんなのか、やっと、解ったような気がしたのだ。

疲れている人たちを傷つけないように、誤魔化しているけど、この人は虚無の人ではなくスポ根の人だったのだ。

2作目のこれを読んで、まず、

ああ、ひょっとして、吾妻ひでおがアル中になったのは、すごく自分の作品のクオリティにこだわる人だったんだ。からこそ、過去に出した素晴らしい作品を今の自分が全く超えられなくなったのが、また、もどかしすぎて、もどかしすぎて、辛くなったのかもしれないな。だからホームレスに逃げたんだ。そう感じた。

ふつうのひとなら絶対考えないような大きいハードルを掲げて、当然、それを超えられない自分が、何も恥ずかしくないのに、恥ずかしくて恥ずかしくて、死にそうにつらくなったんじゃないかな、才能がありながらなんて不器用な人なんだろう、と。

そして。

自分自身が掲げた過剰に高いハードルの高さからながめるとごみのように見える「自分」。そういう過剰な劣等感と過剰なプライドを、結局捨てられないけどこの人、ありえないことに、その不安定なものを抱えたまま立ち上がったんだ!

自分の才能が枯渇しているとしても、時代の流れに合わない作風かもしれないと不安になったとしても、今の自分に描けるのは自分のプライバシーを見世物にするだけのマンガだけなのかもしれないと絶望してしまっても、自分がゴミだと感じても、それでも、それでも、

絶望したまま、それでも描いてやる、

という気持ちになって、

一度アル中のホームレスになってそこから這い上がるなんて本当に無茶なことで

ふつうは不可能なのに

この人は自分から立ち上がって自分でホームレスを辞めてこうしてここに帰って来ずにはいられなかったんだ!黄泉の国から!

それほどまでに描くしかない、描かずにはいられないそんな人なんだなこの人は!

と感じたのだ。

体も脳も痛み老いたあげくアル中、このイマサラな状態からあえて這い上がるのはどれだけくそ根性がいるか。

這い上がったところでいまさらなんなんだ、な状況で這い上がるのは高校球児の努力より何十倍もキツいものだ。それでも、それでも、すさまじい力を込めて何度でも力いっぱい這い上がってる。

この世にはこれだけ再生することができる人間もいるのだ、それを教えてくれた著者に感謝したい。

私は飲めないが、本当に、ほんんんとうに、酒が飲めなくて良かった。

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