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空想
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ショートショート『スイマー on the ボラード』

ショートショート『スイマー on the ボラード』

 ボラードに乗っているのだ、スイマーが。

 ボラードとは車道と歩道の間に等間隔で並んでいるポールのようなアレである。時にはこちらに警告し、時にはさらりと景観になじみ、ほろ酔い気分の帰り路に、軽快にタッチしたくなるアレである。太さ、高さ、形状、色彩、模様、多々あれど、あれらは全てボラードである。なぜボラードの説明をしたか。私も今しがたコレの正式名称を知ったからである。

 つい先ほどのことである。

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ショートショート『明太子ノスタルジー』

ショートショート『明太子ノスタルジー』

 家の扉が開かない。困った。これから高校以来会っていなかったクラスメイトと久々に会うというのに、家から抜け出すことができない。
 そのクラスメイトとは当時、特に言葉をかわす間柄ではなかったが、いかんせん全校生徒の数が少なかったため、卒業して10年経つ今でもその顔だけは記憶の片隅に残ってしまっていた。3ヶ月前に偶然、地下鉄銀座駅のホームで再会し、
 「あー!」
 「え?久々じゃんー!」
 「えーびっ

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ショートショート『生きているゴミ』

ショートショート『生きているゴミ』

 駅前で待ち合わせをしていると、目の前に置いてある二つ口のついたゴミ箱が目に入る。家庭用洗濯機ほどの大きさだ(ドラム式の洗濯機を想像したあなたは富裕層である)。それぞれの口の下に文字が書いてある。

 『生きているゴミ』
 『生きていないゴミ』

 ゴミを生命の有無で分別したことなど生まれてこのかたありゃしない。そもそもゴミに命なんてないから全て等しく『生きていない』のではないか。ちなみに『死んで

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ショートショート『フィナーレおじさん』

ショートショート『フィナーレおじさん』

 おじさんはふいにやってくる。終わりを告げにやってくる。どこからともなくやってくる。スクリーンの中か、マジックバーでしかお目に掛かることのないシルクハットを被りやってくる。

 現れる場所はジャンルを問わない。恋人とのデート現場、エレクトリカルパレード、漫才師の舞台中、どんな場所へもやってくる。

 フィナーレおじさんはみんなの嫌われ者。だって高揚感に満ち溢れた気持ちを一気に転落させるから。フィナ

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ショートショート『思春期ピアノ』

ショートショート『思春期ピアノ』

 恐れていたことが起きた。ついにうちのピアノが思春期を迎えたのだ。

 これまであんなに素直に奏でていたのに。今のあいつはというと、ドを押すとミを奏でたり、わざと半音下げたり、時には音を出すことすら拒否してくる。そんな反抗的な態度を取ったかと思いきや、お気に入りの人に対してはいつも以上に張り切って音を奏でてみせたりする。でもこれは育て方が悪かったわけではない。どのピアノにだって思春期は来るものだ。

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ショートショート『メイウェザーランドドワーフ』

ショートショート『メイウェザーランドドワーフ』

 戦績は生まれてから無敗。金の亡者という異名を持ち、卓越したスピードとディフェンス技術を駆使し、ラビット業界のトップに君臨しているウサギ。

 「TBE(史上最高、The Best Everの略)」を自称しており、以前はそのディフェンス能力で顔に傷ができないことから「Pretty Rabbit(プリティラビット)」の異名を持っていた。怖い。
 

ショートショート『エンドロール隊』

ショートショート『エンドロール隊』

 エンドロール隊が歩いていく。上に向かって歩いていく。下でも左でもましてや右斜め下でもなく、そういう運命であることを自ら受け入れているかのように決まって上に歩いていく。全員同じフォントを身に纏い寸分くるわず整列し、一定の速度で上へ歩いていく。少しでも隊列を乱しようものなら何をされるか分からない。ふと立ち止まり流行りの行進曲に耳を傾け、故郷に思いを馳せたくともそれは許されない。大勢の観客達が余韻に浸

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ショートショート『将棋雨』

ショートショート『将棋雨』

 「今日は一日中、歩雨となるでしょう」

 歩雨か。なら普通の傘で十分だ。僕は家のドアを丁度人が通れない程度開けたところで、歩雨が地面に当たりカランと音を立て跳ね返るのを確認した。僕は左足でドアを固定し、先週コンビニで買ったビニール傘の先端を外に出す。そして左肩でドアを押し開けると同時に傘を満開にし自分の体をその後に続かせる。過去の雨の日の経験が血肉となり今の自分を作り上げていることを実感し僕は少

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ショートショート『ログインボーナスタイム』

ショートショート『ログインボーナスタイム』

 スマホが黒船のごとく到来し、気づくと人々を侵食しているこの時代(文化とはそういうもの)、テレビ局の局員や広告会社、あるいはテレビ制作に関わる人々が次の時代での身の振る舞い方を模索している中、僕はそれどころではなかった。

 毎時58分頃になると、これから訪れる拘束時間に備え、冷蔵庫から口が寂しくならないよう急いで口内暇つぶしアイテムをかき集める。いつ如何なる時でも僕の味方であるそのアイテム達は、

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ショートショート『ベビベビベイビーバーガー』

ショートショート『ベビベビベイビーバーガー』

材料(一個分)
布袋寅泰 1人
バンズ  大1個
トマト(あれば)大1/2個

作り方
1. 布袋寅泰を一晩寝かせる。
2. バンズをトースターで両面焼く。焦がさないように注意。
3. バンズに具材を挟む。下から、トマト→布袋寅泰→トマト。
4. キスをして3つ数える。
5. 完成。

ショートショート『野生のトーナメント』

ショートショート『野生のトーナメント』

 この山に入ってから15分ほど歩いたであろうか。時折きらりと輝く朝露が、少なく見積もっても10時間以内にこの山に雨が降り注いでいたことを示している。条件は整った。この辺りにいるはずだ。

 警戒心を一層高め、体の重心の現在地を正確に把握できるほどの速度で私は歩いた。わずか3歩ほど歩いた時点で私は自分の見積りが正しかったことを確信する。右手に見える樹齢1000年をゆうに超えるであろう大樹の脇から2本

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